プール ページ5
｢暑ッぢ〜…｣
蝉時雨と陽炎。炎天下の中、何の冷房設備もない校舎で普段どおりの授業。
｢だらしない…。温暖湿潤気候で暮らすのだからあきらめなさい。ちなみに先生は、放課後には寒帯に逃げます｣
｢ずりぃ！！｣
クラスメイトたちの暑苦しいツッコミで5℃上がった気がする。北ヨーロッパ出身の身からすると、日本の暑さは異常。
暑さに耐えきれず上げた前髪は数本額に張り付き、シャツは第二ボタンまで開けた。そしてノートで扇いでいる。
｢あ、今日プール開きなんでしょ？ 少しは涼めるんじゃ｣
気休めに言ってみるが、カルマに否定される。
｢そのプールがE組にとっちゃ地獄なんだよ｣
本校舎との間、およそ1kmの道のりを往復して入りに行くらしい。
｢人呼んで｢E組 死のプール行軍｣。プール疲れした帰りの山登りは、力尽きてカラスのエサになりかねねー｣
前列でそう言う木村もきっと汗だく。伝う感触が気持ち悪い。私は持参した汗ふきシートで顔を拭った。
｢センセーが本校舎まで運んだらいーのに。映画んときみたいにさ〜…｣
｢んもーしょーがないなぁ…と言いたいですが、先生のスピードを当てにするんじゃありません！！｣
不正解の顔+触手(て)で作ったバツ印。
暑い日は気が立ってくる。後頭部をかきながら机に足をかけたそのとき、殺せんせーが地理の教科書を閉じた。
｢仕方無い、全員水着に着替えてついて来なさい。裏山の小さな沢に涼みに行きましょう｣
大人しく…そして内心ウキウキしながら水着に着替え沢に向かっている。
｢裏山に沢なんてあったんだ｣
｢うん。でも、足首までギリあるかどうかだよ｣
速水の呟きに答える。サボり常習犯の称号は伊達じゃない、裏山のことは知り尽くしている。
｢ま…水かけ遊びできるから、ちっとはマシか｣
杉野が妥協するようにそう言った。
沢に近づいてくると殺せんせーは言った。
｢先生が君達をプールに連れて行く事、残念ながらそれには1日かかります｣
｢1日…って大げさな。本校舎のプールなんて歩いて20分…｣
｢おや、誰が本校舎に行くと？｣
殺せんせーの奥に水面が見えた気がした。陽の光が反射して輝いている。
私達は走り出した。
｢水が溜まるまで20時間！ …製作に1日、移動に1分、あとは1秒あれば飛びこめますよ｣
水着の上に羽織っていた体操服を脱ぎ捨てた。一斉に飛び込む。
｢い…いやっほぉう！！｣
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作者名：京陽 | 作成日時：2019年12月2日 11時
