誘惑 ページ19
プールの大騒動が終わり、プールは例と如く殺せんせーが整備した。
一件落着、とカエデと共に家路についた。
｢でね、新作のシュークリームのカスタードが…｣
彼女のスイーツ談義を聞くのは何度目か。しかし、周囲に花が舞っているような笑顔は悪くない。
｢…カエデ、ストップ｣
しかし、そうも行かなかった。手の平で制止を促す。緊迫した表情から尋常ではないと判断したか、大人しく口を噤んでくれた。
｢…何の用｣
今まで無風だったことが嘘のように風が強く吹いた。靡く髪を押さえつつ振り返る。
｢やぁ｣
そこには先程とんずらをぶっこいたシロの姿がある。顔を見ずともカエデに緊張が走っているのは容易に分かった。
｢君達には折り入って頼みがあってね。天羽Aに茅野カエデ…いや、雪村あかり｣
｢雪村あかり？｣
｢何のことよ！｣
私は言っていることが理解できずにいたが、カエデがかつてないほど動揺している。これは何かあるに違いない。
｢茅野カエデ…本名 雪村あかり。彼女はあの担任を殺そうとしているんだ。何せ、姉の仇だ｣
｢うるさい！ …ねぇ、A。違うよ？ あんなのの言うことなんて、信じちゃダメ｣
クスクスと笑うシロ。
｢…当たり前でしょ、カエデを信じる。ね、先行っててよ。まだコイツに用があるから｣
考えた末、そう言ってカエデを遠ざけることとした。カエデは心配そうにこちらを振り向きながら行く。なんとか視界から外れた頃、
｢で、頼みって何？｣
｢先にそちらの用とやらを聞こう｣
｢…あんた、｢心臓｣って言ってたよね。殺せんせーの｢心臓｣。私はいなかったけど、最初にイトナが来たときの話も聞いた。あんたは殺せんせーのことに詳しすぎる｣
一体どういう関係だ。
そもそも殺せんせーという生物自体謎に包まれているのだ。いつ生まれた、どこから来た、いくらでも疑問は湧く。そこに彗星の如く現れたシロ、きっと何かを握っている。
｢そういうことかい。…ひとつ言えるのは奴を憎む1人、というところだ｣
酷く曖昧な答えだ。しかし、これ以上追求するのも無駄に思えた。
｢そ…で、用とやらは？ カエデ帰らせちゃったけど｣
｢まずは雪村あかりについてだ｣
カエデの抱える真実。
彼女の正体が語られた。といっても、結構肝心な部分を伏せつつだったが。
｢つまりはカエデは姉貴を殺せんせーに殺されて、イトナと同じ触手細胞を植えて復讐のタイミングを伺っている。そして、その姉貴は殺せんせーの前の担任｣
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作者名：京陽 | 作成日時：2019年12月2日 11時
