ヒューマンバグ大学短編集５ (ページ21)

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*香坂side

「我妻さんじゃないですか。こんな所で一体何を
　しているのでしょう」

「こっちに女が来ていただろう」

「ええ。何か慌てていたみたいですが……もしかして京極組の
　構成員でしたか？」

俺は敢えて隠さなかった。この男ならスーツについた香りで
感づく筈だからだ

「足止めしておいた方が良かったみたいですね」

「いや、大丈夫だ」

「そうですか」

「しかし非力な構成員を狙うなんてあまり得策とは
　言えないでは？」

「あの女……Aは京極組の原動力だ。存在そのものに価値がある」

戎炎の構成員ですら駒のように見ている節がある貴方にしては
随分と高く評価しているみたいだな

「精神的なダメージを与えれば戎炎にとって有利に事が運ぶ。
　それだけだ」

「成る程。一つ我妻さんにお伝えしていきたい事があります」

「何だ」

「今の貴方は感情が表に出過ぎている、少し冷静になった方が
　いい。そんな様子では今後の話し合いが不安だ」

「………」

「ではこれで失礼します。また今度、打ち合わせをする時に
　お会いしましょう」

踵を返す我妻の背中が見えなくなるまで俺はその場で目を
光らせていた

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本部に戻った俺は机の上に置いている一枚の写真を手に取る

「我妻。お前も狙っていたのか」

奴らと手を組むに辺り、俺は戎炎と抗争中の京極組について
探りを入れていた

市場拡大を狙っているのだから敵対しかねない組織について
情報を洗い出すのは当然だろう

「(しかし想像以上だった)」

京極組の調査を進めている中、俺はAという唯一の女構成員が
気になりシノギルートについて調べ上げた。そして偶然を装って
あの場に居合わせた

その思惑に気付く気配もなく微かに震えながら俺に縋るその姿は
何とも可愛らしいく、本当に極道か疑ってしまったが……

＿＿あの女……Aは京極組の原動力だ。存在そのものに価値がある

あそこまで執着させるとは……その評価はある意味間違っては
いないのだろう

「お礼……か」

去り際に残された一言。それを向けた相手がマッドカルテルの
日本支部長だと知る時、どんな顔をするのか

「約束は果たしてもらうぞ。A」

我妻、お前のように自分の感情に嘘をつくつもりなどない。
俺は必ずAを自分の物にしてみせる

*