ヒューマンバグ大学短編集５ (ページ18)

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*兄者side

言うべきでない事くらい理解している。それがAに
とって聞きたくない言葉である事もだ

「そうすれば……ただ愛する事が出来たのに」

鵺は銀田家に仕える使命。そして俺は頭領として一族を
繁栄を考えなければならない

嘆いた所で何も変わらなければ逃れられる訳でもなく
苦しさは増すばかり……しかしAにこんな表情をさせてまで
守らなければいけないものなのか

「何、言っているのですか」

昔は無邪気に慕っていた筈のAはいつの間にか自分を
一族の頭領として距離を置くようになってしまった

「頭領らしくないです、こんなの」

俺はずっと望んでいた

こうして頼り気無い小さな身体を抱きしめる事も柔らかくて
白い肌に触れる事も……

「らしくないか」

Aの方が俺より余程現実を分かっている。だが暗く血塗られた
一族の歴史の中で唯一の光であるお前がこうして傷つき、悲しむの
なら俺は……

「(智也。お前は正しかった)」

それに気がつくのがもう少し早ければ……いや、今からでも
遅くはないだろうか

「(頭領として出来る事を……)」

それから暫くそのままだったが幾分落ち着いた俺は手当てを
再開する。想像以上に深手でよくここまで我慢出来たものだと
思わず感心してしまった

「このままでいても銀田家……鵺一族の為にならないと
　俺は考えている」

「………」

「待っていてくれ。必ず変えてみせる」

今更生まれ持った運命を恨んでも仕方がない。ならば頭領として
全力を尽くすのみ

「あの、頭領」

「どうした」

「いつまでこの格好をしていれば」

包帯が痛々しく巻かれるその体を労るように俺は先程よりも
優しく抱きしめる

「……俺の気が済むまでだ」

「え……」

これはある意味、好機と言えるだろう

「聞き逃した訳ではあるまい」

「え？」

「愛する……そう言った筈だ」

適当に流そうとしている訳ではないだろうな。そんな真似を
俺がそれを許すとでも？

「A。逃げるな」

「ちょ……頭領！」

その戸惑いもある程度は理解出来る。だが久しぶりにこんな
近くにAがいる

……普段、頭領として気を張っているのだから多少の癒やしを
求めてもいいだろう

「もう少しだけこのままでいさせてくれ」

俺の願いに根負けしたAが大人しくなるまで少し時間がかかった

*