ヒューマンバグ大学 短編集４

獅子王組　井上　リク ページ24

*来栖side






「月麦ー」


＿＿ワシャワシャ……


「お疲れ様ー」

「やっべぇ！Aの姉貴に頭撫でてて貰えた……超嬉しい！」


目の前で繰り広げられるイチャつき。ウザいにも程がある

いや。すこし語弊があるか……ウザいのはAの姉貴じゃなくて
井上の兄貴だ


「頑張ったねぇ！偉い偉い！」


まるで犬でも褒めてるのかと言わんばかりの撫で方……俺
最近してもらってませんよ。Aの姉貴


「俺からもお返しっす」

「わー、髪の毛ぐちゃぐちゃ！何すんのー」


ここ事務所なの忘れてません？お二人さん


「もー、止めて。髪の毛治すから」

「あぁすみません」


比較的器用な筈のAの姉貴は乱れた髪を上手く纏められず、
井上の兄貴に半泣きで直してと頼みに行った


「月麦ぃぃ……上手く出来ない」

「しょうがない人ですね。ほら、こっち来て下さい」


何をどうしたらそんなにサラサラになるのだと聞きたくなる
その髪の毛を整えるのは井上の兄貴でも難しかったらしい


「痛っ……引っ張らないでよー……」

「Aの姉貴の髪の毛マジでサラサラ過ぎて逆に
　やり辛いんっすよ！」

「もういいー。解いたままにする！」


……ん？ちょっと、Aの姉貴？何でこっち来るんですか


「来栖君！月麦が髪の毛を引っ張った。日頃の恨みを晴らす
　チャンスだよ！懲らしめてやって！」

「おい来栖。お前、余計な事すんなよ」


いい加減、俺を巻き込むのは止めてもらえませんかね？


「はぁ……そのままにもしておけないでしょう。こっち来て下さい。
　今、直しますから」

「流石、来栖君！お願いしますっ」


俺が髪に手を伸ばした時だった。Aの姉貴のスマホに
着信が入り、一瞬にして仕事モードに切り替わったその
凛々しくて美しい横顔を眺めていると……


「月麦、花宝町の☓☓地区で愚連隊がカタギの店で暴れてる。
　一緒に行くよ。それと」

「何です？」

「……カチコミ終わった後に髪の毛直してね」


一足先に姉貴は部屋を後にした。井上の兄貴もそれに続いて
出ていく……と思いきや


「やっぱりAの姉貴の髪を治すのは俺しかいないみたいだな」

「！！井上の兄貴……」


こちらをニヤリと笑いながらそう告げる兄貴に俺は苛立ちを隠せない

余裕をこいていられるのも今のうちですよ。俺だってAの姉貴を
諦めた訳じゃありませんからね



「覚悟して下さいよ」



その恨み混じりの決意が遠ざかる井上の兄貴に届いたかどうかは
分からない






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