守るべき愛しい子

・ ページ18

*




「戸狩の兄貴……それ急ぎの仕事じゃないでしょう？何で
　そんな必死に」

「Aが復帰した時に仕事溜まってたら可哀想やろ」


たまたま通りかかった城戸は大量に積まれた書類と格闘する
玄弥の背中を見て堪らず声をかけた


「朝から休みもせんで大丈夫なんですか？」

「アホか。愛する妻に負担かけるくらいならこんなん
　何ともないわ」

「俺もやります」

「お前は関係ないやろ」

「Aは俺の妹分ですから。関係ない事ありません」


Aは玄弥と結婚してるだけで別に戸狩派ではない。
どちらかと言えば城戸派寄りの人間だ


「要らん事すんなって」

「こんな言い争いしてる場合ちゃいますよ。はよ終わらせて
　帰ってやって下さい」




＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿




「Aって料理めっちゃ上手いねん」

「……そうですか」


城戸はこの時、勢いに任せて仕事を手伝うと申し出た事を
激しく後悔していた


「特にエビチリなんか他所の食いたくなくなるくらい美味いで」

「……そうですか」

「今日の夕飯エビチリやったらええなぁ。他の出ても勿論
　嬉しいで？Aの手料理ホンマに」

「何回目ですかそれ。もう聞き飽きましたよ」


残業中、横から絶え間なく流れてくるAに対する惚気けに
城戸はゲッソリとしている

それでも作業の手を止めないのだから本当に器用だと思う


「本人に直接伝えればええとちゃいますか」

「伝えとるけど？」

「今、話した内容そのままですか？」

「せやで」

「……」

「いつも言わんでええって言われるんやけどな」


確かに毎回こんな勢いで言われるのはキツイ。この時初めて
城戸はAがいつも辟易している原因を理解した


「もし夕飯自体作ってなかったらどうするんですか」


ふと少し意地の悪い質問を投げかける


「俺が作ればええだけの話やろ？何を言うとるん」


夫としてもはや満点以上の返事に城戸は何も言えなくなった


「何だかんだ俺の作ったの食ってくれるしホンマに可愛いわ」

「(もう惚気は腹いっぱいですわ。戸狩の兄貴……)」






残業が終わり、早々に事務所を後にした玄弥を見送りながら
城戸は浅倉に急いで電話をかける


「今日の飯なんやけど中華やなくて別のもんに出来んか？
　今、エビチリ見たら具合悪くなりそうなんや」

「？分かりました」


電話の向こうから何があったんですかと聞こえるがそれに
答える気力すら残っていない




*

9　夫婦喧嘩は犬も……→←8　心配性な夫とエビチリ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す