風は吹かず ページ44
「エクメアに会ったのか。」
2人の服へ視線を移す、白を主にした服はどう見ても月の服だ。
フォスの服には俺の服と似たような、動くと揺れるひらひらがついているがアマゾナイトの方にはそれがついていない素っ気ないデザインになっている。
あのアマゾナイトらしいといえばらしいだろう。
「あの不思議な野郎な。会ったぜ。」
そうかと、一言だけ返す。
光も何も差し込まない部屋は三人が入るには狭く、どこか息苦しかった。
もちろん、心境の問題もあるのだろうが。
ただ。久しぶりに、皆がいる学校が恋しくなった。
「…フォス、いや、青緑。少しアマゾナイトを貸してくれ。」
「元々僕のじゃないし全然いいよ、いってらっしゃい。」
「待て俺は了承してない…おい、おい。」
不愉快そうに顔を歪め、反論するアマゾナイトの声は耳に入れずに手を掴んで外へ連れていく。
月人達の目がない場所で話したいため、少しだけ離れた場所で話そう。
一歩一歩、月の砂を踏んで先を進んでいく。この鈍く光る月の砂を見るたびに目を瞑りたくなるが、目を瞑っては前へ進むことができない。
なんとも、酷い事だろうか。
「どこまで行くんだ。」
返事はせずに、先へ歩く。
高い月人の声が、まだ微かに耳に届いていた。
「おい、聞いてるのか。」
やがて、音は聞こえなくなる。
そこでようやく後ろに振り返り、どれほど離れたか確認する
光は、手のひらで包み込める程の大きさになっていた。
「聞いてる。次は俺の話を聞いてくれる番だよな。」
その場に座り込む。
アマゾナイトも隣に座り込んだ。
「ああ、言えよ。」
一瞬だけ、口を紡ぐ。
本当にそれは一瞬だけで、すぐに口を開いた。
「この服、あんま俺に合ってないよな。」
胸の半分から上までは透けていて、袖にはヒラヒラがついている。
明らかに俺には似合ってないし、俺も好みではない。
だが、無理を言ってエクメアにこの服に変えてもらった理由はある。
「…お前をあんま知らないからな、そこはわからない。」
知らないと言われるのは少しだけ悲しいが、それもしょうがない事だと。
自分を納得させる。
「確かにそうだったか。」
それからは、しばらくお互い共言葉を発さなかった。
風も吹かない月では、風の音は聞こえない。
完全静かな空間が、気まずさを倍増させている。
「俺と一緒に、朽ちてみないか。」
沈黙は、消えていった。
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作者名:兀 | 作成日時:2018年6月3日 20時