青い空、美しい草花 ページ16
「……春だなぁ。青緑、皆を起こしてきてくれないか？」
外の景色を見ながら、青緑へと話しかける。
「わかった、起こしてくる。」
よろしく頼む、そう返しては外へと歩き出した。
季節がどんどん変わって、時が過ぎていく。
季節以外にも、あの青緑だって。俺の右手と右足だって。
色々なものが変わった。
「まだまだ変わっていくのか。」
目を閉じて、歩き出す。
いっそ何も見えないままで、何も聞こえないままでいたら幸せなのだろうか。
「はは＿そんな事は無いよなぁ。」
1人、微笑む。
草花はすっかり正気を持ち、陽の光を吸っている。
花も草も綺麗だと、そんな当たり前のことを改めて実感した。
そうだ、折角だしシンシャの所にでも顔を出そう。
そう決めれば行動はすぐだ。急ぎ足でシンシャの所へと向かっていった。
「シンシャ、起きてるか？」
シンシャがよくいる場所で、名前を呼んでみる。
が、しばらく返事は返って来なかったため、居ないか。と小さく呟く。
「…どうした、アイツにでも何か頼まれたのか？」
突然声をかけられたため、うわ、と声を出して大きく仰け反る。
「ビックリした…、突然出てくるなって…。アイツって青緑か？ いいや、頼まれてない。気分で寄ってみただけだ。」
珍しいな、シンシャが言う。
それから会話は続かず、風に揺れる草の音だけが耳に入ってくる。
「そういえばお前、その手と足は。」
シンシャが右手と右足に視線を向けてくる。
そういえばこの姿で会うのは初めてか、と今更気付く。
中々覚えていないものだ。
「あー…月人に右手と右足だけ持っていかれてな。あの青緑が付けてるのと同じのを付けたんだ。」
「……そうか、色々あったんだな。」
そうだな、とだけ返す。
「さて、そろそろ皆の所に行かなきゃだからこれくらいで。話しに付き合ってくれてありがとな。」
「………アイツみたいな事には、なるなよ。」
シンシャがそんな事を言ってくれるだなんて珍しい事もあるものだ。
そんな事を思いながら、シンシャの前へ右手の小指を差し出す。
「あぁ、もちろん。約束だ。」
シンシャは少し困ったような表情を見せたが、すぐに小指を差し出してくる。
こちらもそれに答え、精一杯の笑顔を作って見せた。
「んじゃ、またな。気が向いたらまた来るよ。」
ゆっくりと、青い空を見ながら歩き出す。
さて、皆にどんな顔を見せて会えばいいだろうか。
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作者名：兀 | 作成日時：2018年6月3日 20時
