薄浅葱は月で心を枯らす ページ30
「君は、帰ろうとはしないのか？」
ただ、暗い空が広がる場所。
白い服を身に纏い、宝石達とはまた違った容姿をしている月人は言う。
その横には、白い服を纏った薄浅葱色の宝石が居た。
「……今更帰っても、苦しむだけさ。」
笑みも何も浮かべず薄浅葱は言い放つ。
その目には勇気も、未来を見る光も何も灯ってはいない。
薄荷色の宝石と過去に楽しそうに話していた彼の面影は、もうそこには無くなっていた。
「そうだ。何か手伝う仕事は無いだろうか。ずっとここに何もせず居るのも悪いだろう。」
それを聞けば月人の方はうーん、と声を放つ。
何かないか考えている様子だ。
「……今は特に思いつかないな。何かあったら言わせてもらうさ。」
「あぁ、わかった。」
＿＿
冬も近付いてきた日の朝、フォスとカンゴームは緒の丘の見回りをしていた。
フォスははしゃぎながら海辺を走り、水飛沫を散らす。
そのフォスの様子にカンゴームは飽き飽きしているようだった。
＿刹那。
空青色の宝石が、砂煙と共に砂浜へと落下した。
それに真っ先に気づいたカンゴームは早足で落下地点へと行く。
砂煙も落ち着き、カンゴームが宝石の顔を覗き込めば、今まさに口を開こうとしている所だった。
「…新しい宝石だ。おいフォス、先生に報告に行ってこい。」
「新しい宝石ー？！ どんな子か楽しみだなー！ いってきまーす！」
＿前にもこんな事があったとフォスは学校へと向かう途中に思い出す。
脳裏に浮かんだのは既に月へと行ってしまったクリソコラの顔と、今まで笑いあった記憶だった。
とある感情が、フォスの心を埋める。
まさにそれは“悲しみ”そのもので、フォスの瞳からは光が当たり煌めく合金が漏れる。
「…元気に、してるかな。してたらいいな。」
フォスは呟く。
帰ってくるはずのない彼の記憶を、大切に、丁寧に胸の奥に仕舞いながら。
＿＿
「新しい宝石の名はアマゾナイト、皆仲良くするように。」
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作者名：兀 | 作成日時：2018年6月3日 20時
