シンジュクNo.2ホスト系女子。【伊弉冉一二三】

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「いやぁ助かった......さすがこいちゃんでしたね」


バックヤードの椅子に座り、茶髪をキレイにセットする後輩はそう口を開いた。


『ううん、正直俺もちょっと焦ったよ。あれは相当だったね。一二三の方がもう少し上手くやれたんじゃないかな』


水の入ったグラスに口をつけ、再び机に置く。
中の氷がカランと音を立てた。


「そんなことないですよ！最後、怒ってた客も上機嫌でしたし」


『そっか、ありがとう』


お世辞が上手だなぁ。

ここで働く面子は、やっぱりよく口が回るし気も効く。私も見習わないと。


「あー、今嘘だと思いました？本心で褒めてるのに」


ぷすぷすと怒る後輩。
その表情が面白くて、つい笑ってしまう。


『ははっ、何そのふくれっ面』


そう言うと、彼は目をぱちぱちと瞬かせた。



「......こいちゃんって、笑った時なんか可愛いですよね」


『そこはかっこいいにしとけって』


すっとぼけたような顔をする後輩。
可愛いなんて、こっちの姿で言われても複雑なんだってば。


そういえば一二三にも言われたな。
もう少し男らしさを意識して気をつけないと......



ぼんやり考えていると、ふと後輩の黒シャツの一部が白くなっているのが目に映る。



『ここ、汚れてんじゃん』


「......！」


じっと見ると、クリームだとわかった。
大方、接客中についたものだろう。

ちょいちょい、と布巾でシャツをなぞる。


『ん、取れた』


「あ、どうも......」


だらしないと思われるから気をつけてと釘をさしながら、布巾を水で洗い流す。

まぁ、こういう男が好きな女も多いから
そういう戦法で行くなら文句は言わないけども。

それにしても、この後輩は単にドジなだけだ。



「あの」

『ん？』


声をかけられ振り返ると、彼は浮かない顔をしていた。

少し心配になり、どうしたのと声をかけようとする。


が、タイミング悪く、机に置いていたスマホが鳴る。



「先輩のスマホだ。どうぞ......って、あれ」


彼が私のスマホを見て、少し驚いた顔をする。
パッと受け取ると、"ひふみ"と表記されていた。


どき、と心臓が小さく跳ねる。


『ごめん』

「あっ、いえ」


後輩の断りを得て、通話ボタンに触れる。


電話の向こうからは、子供のようにブーイングを入れる彼の声が聞こえた。


『アフター？なかったよ』


早くと急かす彼の声に、笑みをこぼす。









そんな私に視線をよこす後輩の想いは、
今の私には知る由もない。









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