ファイナルカット。 ページ8
『お、かあさん、、、？』
「見るなA！！」
あの日。
まるで絵の具を垂らしたような色のお風呂に手をつけて。
咄嗟に目を覆ったお兄ちゃんの手の震えや冷たさを、今でも覚えてる。
「行くぞA。」
『待ってお兄ちゃん、』
あれから12年。
私の手を握って進んでくれたお兄ちゃんと一緒になんとか前に進んで来た。
けれどその時間は、決して私たちの記憶からあの事件を忘れさせてはくれなかった。
「いってらっしゃーい。」
『いって来ます大地！』
お兄ちゃんは30歳、私は26歳。
幼馴染の大地も26歳に。
忘れられないあの記憶を、きちんと精算するために。
私たちは進んでる。
「じゃな、気をつけろよ。」
『了解しました警察官様！』
びっ！と分かれ道で敬礼をすれば、苦笑いしながらおでこを弾かれた。
お兄ちゃんは警察官に。
私は、看護師に。
小さな私営病院の看護師に。
『お大事にどうぞー！』
「ばいばーい！」
小児科の、看護師になった。
それを決心して伝えた時、お兄ちゃんはなにも言わなかった。
そっか、って。
やっと絞り出したようにそう言われた時心の底から安堵した。
保育士には、なれなかった。
でも、それでも。
少しでもお母さんの近くに居たくて。
それで、選んだ仕事。
お兄ちゃんと大地は、今も私の知らないところでいろんなことをしてる。
私が気づいているのも知ってると思う。
それでも、私を仲間に入れてくれない。
それが、お兄ちゃんなりの優しさなんだと思う。
、、、でも。
寂しくて。
私だって、私だって、
ーねぇちょっといいかな。ー
ーっ、ー
あの時の恐怖や怒り、忘れたわけじゃないのに。
中学生は、とても多感で。
あっという間に自分の居場所は無くなった。
いじめもあった。
それでも耐えられたのは、お母さんとお兄ちゃんの存在もあった。
でもそれ以上に、
「A！！！」
『だ、いち、』
いつも、私を助けに来てくれたあいつ。
大地は同い年なのもあって、1番近くに居てくれる私の仲間だった。
そんな大好きな2人と一緒にいるのに。
なのに、私だけ仲間はずれなんてそんなの、
『嫌よ、』
「中村さーん！」
『はーい！！』
お父さんの旧姓を名乗って。
今を生きる私は、本当に生きていると言えるのだろうか。
私は今一体、
『(なにを求めているんだろう。)』
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作者名：ヒヨコ | 作成日時：2017年8月17日 10時
