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『あ、』
弁当を食べ終わったAが、その隣に置いていたひとまわり小さな容器を開けた。その中に詰まっていたのはたくさんの苺。
『まだ好きなの?苺』
「え?」
その中のひとつを口に運ぼうとしていた彼女にそう言えば、少し驚いたように顔を上げたA。
『Aすげぇ苺好きだったじゃん、むかし。だからまだ好きなのかなーと思って、』
「…私が苺好きなの覚えてたの?」
『もちろん』
覚えてるよ。
Aの好きなものはちゃんと全部覚えてる。
小学生のとき、俺が買ったチョコのパックの中に入ってた苺味のチョコあげたらめちゃくちゃ嬉しそうにしてたこととか。
この前行った時はもう変わってたけど、ベッドカバーが苺柄だったこととか。
『まだ好き?』
「…苺?」
『うん』
「……………好き、だよ」
Aはその瞳の奥をゆらゆらさせながらそう答える。
喉に引っかかって出したようなその声は、俺の鼓膜をひどく甘く揺らした。
…好き、ね。
その2文字にわかりやすいくらいに反応した俺の身体。
はは、バカみてぇ。中学生かよ、俺。
"苺が"って文字が文頭につくのはわかってんだけどさ、好きな子のその2文字って結構クんだよな。
誤魔化すようにぐしゃぐしゃと髪を掻き乱してみたけれど、心臓の裏の方はあっついままで。
『俺もまだ好きだよ』
「…え?辰哉くん、苺好きだったっけ?」
『ん?……あー、うん』
苺は、まあ好きだ。
でも今のはそういう意味で言ったんじゃないってことは、もちろん彼女に伝わるわけはなくて。
「…そうだったんだ、知らなかった」
Aは静かに瞼を下ろすといっぱいの苺をじっと見つめて、それでちょっと考えるような素振りを見せてからその容器を俺の方に押し出す。
「じゃあ、…食べる?これ」
『いいの?』
「…うん、別に」
それなら、と彼女からもらったひとつの苺。
それを俺はAの口の前に持っていって、
「っえ?ちょ、」
その柔らかそうな唇にくっつけた。
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こゆき(プロフ) - さゆさん» コメントありがとうございます…!更新頑張ります!! (2020年11月29日 10時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 楽しいです!更新楽しみにしてます(^^) (2020年11月26日 23時) (レス) id: 04307595de (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - (名前)ひなさん» いつもありがとうございます…!自己満の拙い作品ですが、好きだと言っていただけて本当に嬉しいです!さらに楽しんでいただけるよう、更新頑張ります…! (2020年10月18日 0時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)ひな(プロフ) - うわあ新しい作品もめちゃめちゃきゅんきゅんします…!!ほんとにこゆきさんの小説好きすぎて…毎日見てます!!しぇあはうすの住人もハニーシュガーの誘惑も楽しみにしてます^^ (2020年10月12日 16時) (レス) id: cc80ef896f (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - さーたんさん» コメントありがとうございます…!描写とても考えながら書いているので、そのように言っていただけてとても嬉しいです!今後もよろしくお願いします…! (2020年10月11日 21時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こゆき | 作成日時:2020年10月5日 23時