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『っ、わかった、…わかったから！』
お願いだからこの手、離して。
心臓がもう壊れそうだ。
そう、結局根負けして口をついた私の言葉に、「おー、やっと言った」と彼は満足そうに笑って、掴んでいた私の手を離してのっそりと立ち上がった。
やっと離れた手に、ふぅっと息をつく。
…なんか今日はすごく疲れた。
「じゃあお言葉通り帰るわ」
『……。』
「なに、まだ怒ってんの？笑」
『…なんでもない、早く帰って』
「はいはい」
不規則になった脈動。
それを誤魔化すように、私に揶揄うような視線を送る彼を半ば強引に部屋から追い出して。
玄関に追いやったところで、辰哉くんがこっちを向いた。
「A」
『……なに』
「勉強ばっかじゃなくてちゃんと休めよ」
『……辰哉くんは赤点なんだからちゃんと勉強しなきゃだめだよ』
「んー気が向いたら」
『…一生気なんか向かないくせに』
「ふは、ばれた？笑」
ふにゃりと笑った彼はそう言うと「じゃーまたね」とくるりと方向を変えてうちを出ていく。
また、ってなんだ。
ほんとにこれからは、学校とかでも話しかけてくるつもりなんだろうか。
………うん、なるべく見つからないようにしよう。
ふわりと揺れた少し硬そうな黒髪。それから幾分か広くなった背中。
昔と全然違うはずなのに、その背中にどこか少し懐かしさを感じた。
「A？あれ、辰哉くん帰っちゃったの？」
『うん』
彼がいなくなったあとの玄関でぼーっと突っ立っていた私に、お母さんがそう声をかける。
振り返れば、夜勤の支度をしていたと思われるお母さんが私の方を見て柔らかい笑顔を向けていて。
「さっき急に"Aいますか？"って来たからびっくりしちゃった。それにしてもカッコよくなってたねぇ、辰哉くん」
『……そう？』
その言葉に目を泳がせれば、お母さんはそんな私を見てくすりと笑う。
全部お見通しですよ、みたいな含みのある視線に気まずさを覚えて、私は「部屋戻る」とその場から逃げるように階段を駆け上がった。
お母さんはたぶんあの頃も気付いてた。私が彼に抱いていた気持ちに。…だけどね、お母さん、
それはもう、
だってそれは、"今の私"にとっては邪魔な感情でしかないから。
『…続きやらなきゃ』
テーブルに並んだ二つのグラスを視界から排除して、私は問題集へと視線を移した。
──小さく軋んだ胸には、気づかないふりをして。
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こゆき(プロフ) - さゆさん» コメントありがとうございます…！更新頑張ります！！ (2020年11月29日 10時) (
レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 楽しいです！更新楽しみにしてます(^^) (2020年11月26日 23時) (レス) id: 04307595de (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - (名前)ひなさん» いつもありがとうございます…！自己満の拙い作品ですが、好きだと言っていただけて本当に嬉しいです！さらに楽しんでいただけるよう、更新頑張ります…！ (2020年10月18日 0時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)ひな(プロフ) - うわあ新しい作品もめちゃめちゃきゅんきゅんします…！！ほんとにこゆきさんの小説好きすぎて…毎日見てます！！しぇあはうすの住人もハニーシュガーの誘惑も楽しみにしてます＾＾ (2020年10月12日 16時) (レス) id: cc80ef896f (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - さーたんさん» コメントありがとうございます…！描写とても考えながら書いているので、そのように言っていただけてとても嬉しいです！今後もよろしくお願いします…！ (2020年10月11日 21時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こゆき
| 作成日時：2020年10月5日 23時
