22.苦く優しい気遣いの味 ページ29
.
そうして、心から向かい合えた。
嬉しくて、ちょっと恥ずかしくて、それでも笑い合った。
でも、そんな時間は長くは続かなかった。
部屋の端にある充電器で充電されていたタブレット端末からピロン、と音がする。メールが来たらしい。
背筋が凍り付くような感覚がした。恐らくは政府からの連絡だ。この季節だと大演練会が近いのでその連絡だろう。
「…ごめん、薬研、長谷部。メールが来たみたいだから、少し確認してもいいかな」
「ああ、構わないぜ」
「ええ。主の思うままに」
「ありがとう」
そう簡単にやり取りをし、タブレット端末を充電器から外し、電源を入れる。
そうして、通知欄の『今年の大演練会のお知らせ』と書かれた欄を小刻みに震える指で軽く叩く。そうすれば、今年の大演練会の日程、ブロックごとのトーナメント表、そして当日に来れない場合の対処について書かれていた。
俺はきっと、この大会には絶対に参加しなければならないだろう。
只でさえ政府の人間に睨まれているというのに参加しなくては、また難癖を付けられて今度こそは罪人が収容される地下牢へ行くことになる。
それは駄目だ。約束が守れなくなってしまう。
俺は、この本丸の淀みを取り除き、本丸全員が平穏な生活を送れるようにすると決めたんだ。
その約束を果たすまで、俺はそこには行けないんだ。
そんなことを考えていると、薬研が俺の右頬をふにふに、とつついてきた。
「ど、どうしたの薬研？」
「…顔、青白くなってたぞ。何か嫌なことでもあったのか」
前を向けば、心配そうな顔をした薬研と長谷部がこちらを見ていた。
「何か、そのメールに主の気が障ることがあったのでしょうか……ならば、その輩が何であろうとも圧し切ってみせましょう」
「いや、別に気が障っている訳じゃないんだ。ちょっと、迷うことがあって」
と、そんなことを溢していたら、目の前の障子が勢いよく開き、さっき話している時にいつの間にか退室していた信長が、湯気の立つマグカップ四つと煎餅を乗せた御盆を持ちながら立っていた。
「なんじゃー！何か辛気くさい顔しとるのぉマスター！茶でも飲んで落ち着かんか！茶請けに煎餅もあるぞ！」
そんな風に勢いよく渡されたマグカップの中を覗いてみると、黄緑色のほんのりと苦味を含んだ香りがした。
…気遣ってくれたのか。そう思いながら一口、茶を口に含む。
「…ノッブ、これめっちゃ苦い」
「…儂ったら、うっかり分量を間違えてしまったようじゃな！」
続く
お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←21.「それでいい」と微笑んで
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 112人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たけち - 続きが気になります＼(^o^)／ (2020年3月1日 1時) (携帯から) (
レス) id: 06009c9279 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - 更新楽しみにしていました！やっぱり凄く読んでいて面白いし楽しさがあったり、悲しみもありますが、内容がとても良いと思います！続き待ってます(*≧∀≦*) (2019年12月16日 2時) (レス) id: 83c5ab45b3 (このIDを非表示/違反報告)
暁 - 続き楽しみにしてます！ (2019年8月30日 3時) (レス) id: 450f830fbf (このIDを非表示/違反報告)
神右宮月左京(プロフ) - ポメ蔵ｯｯ!!!!!!!!ダメでした。ずっと発狂と涙腺が崩壊してました。続き全裸待機してます。泣きました← (2019年5月28日 13時) (レス) id: 3ebae4acb2 (このIDを非表示/違反報告)
ぬこ(プロフ) - 刀剣乱舞もFGOも好きなので、クロスオーバーしていて嬉しいです！続きを楽しみにしてます。頑張ってくださいq(^-^q)(p^-^)p (2018年11月26日 1時) (レス) id: bf43542093 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
