及川先輩の命令:素直になりなよ

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「いってて…」


今日は練習の時に足をネットに引っ掛けてこけてしまった。


及川先輩に見られてたなんて…恥ずかしい。


ととん、と、つま先を地面につくと、ジワリとした痛みが足首の辺りをはしる。


やっちゃった、かな？


ふぅ、と一息ついて、靴を履き直す。


まあすぐに治るだろう。


「おつかれさまでしたー」


「おつかれー」


先輩達に挨拶をして、少しゆっくりと歩いた。


今日は少し疲れてしまって、背筋を伸ばすことすらしんどく感じていた。


「藤原ちゃーん、おつかれーっ」


「…ぅえ？」


もうすっかり周りは暗くなっていて。


しんと、静かになっている周りの空気に、溶け込むような甘い声。


「及川、先輩…？」


視力の低い目を細くさせ、ただでさえ暗くて見えづらいのに、及川先輩の姿をさがす。


「やっほー。今日一緒にかえんない？」


及川先輩、もしかして待っててくれた？


そう思うと、少しでも早く行かなければ、という謎の使命感がうまれ、私は足を気にせず小走りで先輩のところへ向かおうとした。


けれど、それを及川先輩がとめる。


「あっ、ちょっ駄目！走ったらいくら軽い怪我でも悪化するよ？」


「え？」


「俺が勝手に待ってただけだし、そんな急がなくていいよ」


及川先輩。


貴方は一体何者なんですか？

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