滑走55 ページ17
たぶん、この感情を表すのにぴったりな言葉はいろいろあるのだろう。
けれど俺は馬鹿だから、ただ一言、
最高
その言葉しか、浮かばなかった。
「及川さん」
喉を潤すために飲んだドリンクは、勢いよくガバガバと飲みすぎて、逆にむせてしまった。
声はまだ、ガラガラだ。
「ん゛んっ、及川さん!」
「聞こえてるよ」
顔を洗ってくると言って、風の当たる段差のところに座っていた及川さん。
見つけられてよかったと思った。
たぶん、今しか素直になれない。
「隣、座ってもいいですか」
「いーよ」
さわさわと肌寒い風が頬を撫で、髪を揺らす。
十分体温は抜けたと思ったが、その風を心地いいと思うくらいにはまだ体が火照っているらしい。
「何か言いたいことがあるんじゃないの?」
いざ、と思うと中々言葉が出なかった。
けれど、こうしてゆっくり話すこともないだろうから、この際素直に言おうと決めていた。
「俺、はじめ、及川さんってなんてしつこい人なんだろうって思ってました」
何か言われると思ったが、及川さんは笑って頷くだけだった。
「きっと彼女に振られるときも、しつこいから嫌っていわれるんだろうなって」
「話ズレてるよね」
「すみません」
目を合わさずに、時折横顔を見た。
「今思い返したら、俺、すっごい態度悪かったです。でも、それでも俺を勧誘してくれてありがとうございました」
「入部して、正直楽しいことしかなくて、試合中に、終わりたくないって思うくらいで」
パタタッと何滴か雫が手の甲に落ちて、声が震える。
ちゃんと伝えたいのに、言葉を声に出せば出すほど息が詰まって、涙が溢れる。
「お前、案外よく泣くね」
柔らかく笑って及川さんが俺の頭をポンポンとした。
女子ならきっと惚れてる。
「俺、多分、さびし、んだと、おもいます」
「かわいいこと言ってくれるね」
「だって、もっと、はやく入ってればって、やっぱ、思うし…っ」
なにをいまさら、と思われるかもしれない。
及川さんは、「俺も」、と呟いた。
「俺もね、もっとお前のレシーブ、トスあげたいよ」
自分だって引退で、何かいろんな思いがあるはずだし、今までのことを振り返りたいはずなのに。
及川さんは、いつまでもボロボロ泣いて喋り続ける俺の話を、隣で静かに聞いてくれた。
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春風駘蕩(プロフ) - if作品でこんな面白いの初めて見ました、やべサイコー (2022年1月23日 16時) (レス) @page21 id: 7ec3b8ebfc (このIDを非表示/違反報告)
ぴーなつ(プロフ) - 蓮Kさん» 私はMBでした! 今はしていませんが、基本的にはブロックスパイクのポジションで時々セッターしていましたが、レシーブ力がゼロに等しいです笑 蓮Kさんはレシーブが得意なんですね……羨ましいです! (2019年4月5日 11時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ぴーなつ(プロフ) - おがさん» お気に入り作者登録ありがとうございます。今はこのぴーなつというあかうんとで活動しているので、よろしければまたよろしくお願いいたします (2019年4月5日 11時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
蓮K - 作者さんはポジションどこですか!?自分も現役でリベロとセッター(仮)をしています!(正セッターと対角の位置で、正セッターから反対のところに上がったワンをトスで上げる) (2019年4月1日 0時) (レス) id: 6793fee399 (このIDを非表示/違反報告)
おが(プロフ) - すごい面白かったです!別バージョンも読みたくてお気に入り作者にさせてもらいました!もし機会があれば楽しみにしているのでお願いします! (2018年7月19日 21時) (レス) id: d1e3462194 (このIDを非表示/違反報告)
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