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「ゲトウさん……」

前世の記憶とやらが全くない私には、彼の気持ちを理解することなんて出来ない。彼の『ずっと一緒だった』過去形のこの言葉にはなんの意味が含まれているのか。私の憶測にしか過ぎないけれど、彼の表情を見るにあまり良いものではないのだろう。


「キミの声も名前も、好きな物も嫌いな物も全て覚えているよ、忘れたことなんかない。姿は__ああ、うん、今とは多少異なるけれど、それでも」


私の両手を、ふた周り位大きなゲトウさんの手が包み込み、念じるように目を閉じるその様は、祈りの姿に似ていた。


「……ゲトウさん。私は貴方の事を知らないし、前世と言われても。前世は前世、今世は今世、他人は他人です」


私の言葉にゲトウさんはピクリと肩を震わせると、恐る恐ると顔を上げて私の表情を見ては、深く深く息を吐く。


「____そうか」

程なくして離れていく熱は、私の掌を温めるのには十分で。酷く落ち込む様子の彼に掛ける言葉も見つからない。ただ、彼の様子からして諦めてくれたのだと、私は安堵の息を漏らす。

__前世持ちの人もお気の毒に
過去に囚われているような感覚と同じなのだろうか。


「…………あの、ゲトウさん一つ質問宜しいですか? 私が前世を」

「思い出したのかい?!」

「…………思い出していません。あと肩掴まないでください、痛いです」


『前世』という単語を口にしただけだというのに、骨が悲鳴をあげるのではないかと言うほどの強い力で触れてくるゲトウさんの手を退けて欲しいとお願いすると、彼はまた残念そうに眉を下げてすごすごと離れていく。

__大型犬が叱られた後、みたいな態度を取るの辞めてくれないかな

私の罪悪感が比じゃない。これがもし、ワザとじゃなくて天然だとしたらタチが悪い。


「__私が前世を思い出したとして、どうしたいんですか? 」


もしも昔に私が彼に借金をしていて、そのツケを今でも払えというのなら何年かかるか分からないが絶対に返すので付き纏わないで欲しいし、話しかけないで欲しい。

兎に角、たかが前世で高校時代の同級生だからと言って、必要以上に関わって来られる理由が不明な限り、そう簡単に心は開けないもの。__開いたところで関わるか否かは私次第だが。


「どうしたい……?? 言われてみれば、考えたこと無かったな。____そう……だな、キミと恋人になりたい」

「お断りします」


私、平穏な学生生活を送りたいので。ゲトウさんは勘弁してください。

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設定タグ:呪術廻戦 , 現パロ , 夏油傑   
作品ジャンル:恋愛
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作成日時:2023年10月4日 16時

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