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休み時間中、次の授業の準備を始めていると廊下の方が騒がしく、廊下の様子を見に行った女子もまた教室内で騒ぎ始め、授業中の静けさとは真逆の空気に頭が重たい。
「おい、A」
授業の準備をする私の手元にふと影が掛かり、影が声を発すると教室中の視線が一気に私へと__いや、正確には声の主へと注がれるのを肌で感じる。
恐る恐る、手元に落としていた視線を上げると、声の主が私の顔を覗き込むように見ていた。あとほんの数センチで接触してしまうほどの距離で。
「……やっぱお前、Aじゃねぇか。なにシカトしてんだよ」
男の顔が離れていく。『なにシカトしてんだ』と言われても、突然聞いたことない声に名前を呼ばれて振り返ったらやっぱり知らない人で、反応も何も……。
男は私の前の席に腰を掛けると、頬杖を付いてマジマジと私の顔を観察し始めた。
__外人、さん?
男はサングラスを掛けていて、ふとした瞬間に見えた瞳は美しい碧眼だった。おまけに色白で白髪。恐らくそれら全て天然ものなのだろう。
「__綺麗なひと」
「は、…………はあっ?!」
ついうっかり。本人を前にして言うつもりは無かったが、頭に思い浮かんだ言葉が口から出ていたらしい。
目前の男は、口をあんぐりと大きく開けて掛けたサングラスが盛大にズレているが、それでも綺麗な顔は綺麗だ。
「おまっ……お、ね、熱でもあんじゃねえか?! 変なモンでも食ったのか?!」
男はおもむろに立ち上がると、私の額に手を当てて首を傾げる。
首を傾げたいのは私の方だし、許可もなく人に触れるのは辞めて欲しい。視界の隅で女子の塊が悲鳴を上げているが、悲鳴をあげているのは私の心も同じだ。
「朝食は普通に白米を食べました。腐ったものは食べていません」
「そうじゃねーよ………ってか、さっきからなんでお前俺に対して丁寧語で喋ってんだよ気持ち悪ぃな!! 今更他人行儀かよ。遅せえっての」
「そう言われましても……私、貴方のこと誰だか存じ上げないのですが。何方でしょう?」
「__は??」
私の一言で、騒がしかった教室が一気に静まり返った。室温も5℃位下がったかもしれない。男は口を開けたまま固まってしまった。
「あの」
「…………あ゛〜、 " そういう " 感じか。A。俺また後で来るわ」
そう言うと男は教室から出ていき、静寂に包まれていた教室が再び音を取り戻す。
これは出来ることならば、の話にはなるが。
__もう来なくて結構です。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時