クリスマス･イヴ�� ページ46
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幾ら人混みの中であげた小さな声だったとはいえ、彼女達に私の声は届いていたようで、ゆっくりと此方を振り返った顔はやはり美々子と菜々子。
＿＿けれど、私の姿を捉えた二人から向けられたのは想像とは真逆の反応だった。
｢……アンタ、ダレ？ 美々子、知り合い？｣
｢ううん。知らない人。……人違い、じゃないですか｣
｢＿＿え、｣
ほんの一瞬、奇跡かもしれないと舞い上がった気持ちは意図も簡単に羽根をもがれてしまう。警戒心を丸出しに、不安げに胸元でスマホを持つ二人の姿に私は何も言えなくなる。
それはまるで、一枚の檻の向こうで初めて顔をあわせた時のような、怯えや恐怖を抱いた目。完全に警戒されてしまって続きの言葉が出てこない。
｢あの、｣
｢ああ。すまないね。知人の後ろ姿と君たちがあまりにもそっくりだったから彼女が間違えてしまったみたいなんだ｣
今まで口を噤んでいた傑が、私の肩を優しく撫でる。『違う！』抗議しようとした声は、傑の大きな掌が私の唇に蓋をしてもごもごと意味の無い音となる。
傑の話を聞いた二人は、互いに顔を見合せて何かヒソヒソ話を一つだけすると『なんだ勘違いか』と、警戒を解き何事も無かったかのように再び私達に背を向けてしまった。
*
｢……どうしてさっき引き止めたの｣
クレープを買い終えて、二人の姿が完全に視界から途切れたその時、私は漸く疑問を傑に尋ねた。
傑だって二人の事を覚えている、顔だって声だって、あの子たちのままだった！！ それなのに、まるで『それ以上はいけない』と私を踏み込ませないかのように傑はわざと遮ったとしか思えなかった。
｢……キミが私と同じ思いをして欲しくなかったからだよ｣
｢同じって｣
｢同じだよ｣
そこまで言われてしまえば、具体的な説明をされなくとも何が言いたいかなんて手に取るように分かる。
……もしもあのまま、私があの二人に奇妙な話をしていたとしたら。きっと、疑いの眼差し所では済まなかっただろう。
＿＿嗚呼、又、傑の優しさに救われてる
｢…………ね、次のオススメって何？｣
空気を切替えるように極めて明るい声を出すと、傑は一瞬呆気に取られた表情を浮かべたが直ぐに破顔した。
｢ふふ。今たくさん食べたら、夜のパーティーで何も食べられなくなってしまうよ｣
確かにそうかもね！ なんて二人で笑いながら、人で溢れかえる竹下通りの中、繋がれた右手と左手は固く結ばれていた。
*
*
｢良かった。夏油様もAちゃんも楽しそうに笑ってる｣
｢うん。二人とも幸せそうで何より｣
穏やかな表情を浮かべる双子の呟きは雑踏に掻き消されて誰にも拾われない。
完
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作者名：愛 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時：2023年10月4日 16時
