07.古傷は今も ページ43
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｢もしかして髪の毛伸ばしているのかい？｣
毛先を指に絡めて遊んでいた傑に問われて、彼と出会った時よりも伸びた毛先にふと目をやった。
肩甲骨よりも少し長い位だった筈の髪は今では背中の真ん中程まで伸びて、恐らく私自身の過去最高記録で長いと言っても過言では無い。
成人式までは一年もあるし、これと言って得意なヘアアレンジがある訳でもない。
｢今は伸ばしてないよ。昔は伸ばしていたけど｣
｢昔は？｣
｢不思議な話なんだけどね｣
私の身体には生まれつき二つの傷跡がある。それは左肩とそれから晒さなければ人目に触れる機会の少ない項に一つ。
何故だか、私は身体に付いた傷跡を人に見せないように隠し続けていた。勿論この話は硝子にも話していない。
何時、何故、まるでホクロのように存在するのか答えは記憶が全てだった。
傑が見やすいように髪を退けると、傷跡を目に捉えたのだろう、ハッと息を飲む音が聞こえてきた。
｢…………すまない。話したくもない話をさせてしまった｣
｢ううん。大丈夫｣
触ってもいい？ と尋ねられて迷うことなく『いいよ』と答えた。
夏油の熱に満ちた指先が恐る恐る晒された項に触れる。ゆっくりと放漫な動きで傷跡を指先でなぞると、何か言いたげに口を動かす。＿＿けれど、音は届かない。
『呪霊が見える非術師にバケモノ呼ばわりされるなんて日常茶飯事。手を挙げられても、何をされても、声を挙げるのは何時だって私じゃない。アイツらだ』
『消して無かったことになんてしない。ムカつく。だからこの傷は一生消すつもりはないし、見せしめとして晒してやる』
そう言い放ち自分の目の前で髪の毛をバッサリと切った彼女の姿が夏油の脳裏を過ぎる。自分の手を取ってくれたあの日に打ち明けられたAの秘密。
例え万が一、彼女が傷跡の事を忘れてしまっても、私が忘れることはあってはならなかったのに。
硝子にあれほど言われていたというのに。記憶は痛みすらも引き出す事を。それなのに自分ばかりが悲観的に傷ついたように見せて、負わされた痛みを平然と忘れて。忘れてしまったんだと非難されるのはAの方じゃない、寧ろ私の方だ。
｢……本当にすまない｣
神様とやらは優しいようで優しくない。世界が生まれ変わるのならば、この身体も新たなものとして産み落としてくれればよかったのに。
私ではどうする事の出来ない項に残った唇を押し当てる。
｢ちょっ……傑、なにしてっ｣
｢昔のキミの真似だよ｣
『傷は舐めたら治るんだろう？』とほくそ笑むと、耳まで真っ赤に染まったAに『治るわけないでしょ！！』尤もなことを言われてしまった。
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作者名：愛 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時：2023年10月4日 16時
