04.大型犬 ページ40
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「傑」
目立つから座ってと隣を開けると傑は大人しく私の隣に腰掛けた。適当に傑の物も注文して、それから彼に『あれで良かった?』問えば、静かに頷く。その間も一言も発さないで、本当に犬になったみたいだ。
向かいのソファに座っていた硝子は気を利かして『タバコ吸ってくる』と喫煙ルームに行った為、私と傑の二人きり。
私が彼の名前を呼べばビクリと肩を震わせ、恐る恐るといった様子で視線が交差する。
「……一つ、聞いてもいいかい」
「答えられる範囲でなら」
「私の事、嫌になったから避けたのかい」
神妙な面持ちで聞いてくるから何を言われるのかと思ったら。
「違うよ」
私の答えは勿論即答だった。嫌になったのではない、ただ物理的にも距離を置いて頭を冷やしたかっただけなのだ。元々、頭に血が上っても感情的に相手にぶつけて吐き出す事などして来なかった私には、そうする事が一番だと思っていたから。
__けれど、距離を置いたことによって傑に変な不安を抱かせてしまった。
私が普通に講義を受けてアルバイトをしている間、彼は彼なりに悩んだのだろう、数日ぶりの彼の顔色はあまりよくない。
「……悟に言われたんだ。私があまりにもグイグイ行くからきっとキミが嫌がっているんだろうって。執拗いと愛想を尽かされるぞ……って」
「私が傑に愛想尽かすことなんて来ないよ。……ただ、その、キス……については、後で話そ。場所が場所だし」
あくまであの日拒んだ事も、今まで逃げた事も、彼が嫌いだからでは無いということをしっかりと伝えられた。すると傑の表情から不安の色は消し飛んで、普段の彼が見せる穏やかな笑みが零れた。その笑顔につられて私も微笑み返せば、彼の胸元に抱き寄せられる。
温かくて、全てを包み込んでくれる彼の腕の中はやっぱり心がホッとする。
「……A」
「うん?」
不意に名前を呼ばれて顔を上げると、傑の目尻が柔く細まる。
「キス、しても?」
「やだ」
この流れなら行けると思ったのか、近づいてくる顎先を指で止めれば、不満そうに傑が唇を尖らせ『あと少しだったのに』と心の声がダダ漏れだ。
「仲直り出来たのは良かったけど公共の場でイチャつくなよバカップル」
「その点は大丈夫さ。皆、自分のことに夢中で赤の他人の動向なんて見向きもしてないだろうからね」
喫煙ルームから戻ってきた硝子に頭を小突かれた夏油は悪びれる様子もなく肩をわざとらしく竦めた。
Aは硝子に言われて此処が何処なのかを思い出し夏油の腕から抜け出そうとするも、そう簡単に逃げることは出来なくて。
「傑。離して」
「それは聞けないお願いかな」
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時