03.目も合わせたくない ページ39
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｢ふーん？ それで二人して仲良く夜蛾せんから説教食らって只今絶賛喧嘩中って訳か｣
｢うん｣
｢ハハッ、くだらねー｣
手許のコーヒーに口を付けた硝子は、ふと考える仕草をしたかと思えば一度頷き『やっぱ下らないな』再度同じ言葉を吐く。
そう、硝子の言う通り本当に下らない内容だ。喧嘩、と言うよりも私が傑とただ口を利いていないだけで、適切な言葉の見当たらない状況に硝子が『喧嘩だな』と勝手に名付けただけに過ぎない。
｢……しかしまあ。喧嘩、するんだな｣
『てっきりそんなものとは無縁そうに見えていたけど』続けられた台詞に私の戸惑いを含んだ『それが』という言葉が重なる。
｢過去にケンカ、した事ないの｣
｢……ほお？｣
＿＿傑とケンカしたことなんて、多分、今まで一度もない
意図的に傑を避けて口を利かなかった事だって、記憶を無くしていた時ぐらいしかない。私は傑に腹を立てた事が多分、恐らくなくて。
感情的になって傑と距離を置こうと試みたのは良いものの、元に戻す方法なんて私には分からない。
｢Aの一方的無視ね。……だからさっきからあそこでウロウロしてるのか、あの"クズ"は｣
硝子の呼ぶ"クズ"に当てはまる人物は二人。そのうちの一人は今この場にいたところでなんの興味もない、だから恐らく硝子が言いたいのはもう一人の方。
後ろを振り向けば、大柄で長髪の男性がストレスを抱えた犬の如くうろうろと落ち着かない様子で、明らかに不審者だ。店の中に居るのだから席に座ればいいものを、彷徨う姿に周囲の客が若干不審がっている。やめて欲しい、切実に。
なにはともあれ、こういう時は知らんぷりをするのが一番だろう。そう思って硝子の方へ向き直ろうとするも一歩遅し。
｢A！！｣
バッチリと目が合ってしまった、ウロウロしている不審者＿＿もとい、傑と。
名前まで呼ばれて、私と目が合っただけだと言うのに、キラキラと瞳を輝かせて。一瞬にして不安な表情が消し飛んだ傑には今では背景に花が見える。ついでに今なら黒い大きな耳と尻尾も。
｢……どうして此処に居るの。 明らかに偶然じゃないよね｣
｢硝子に相談したら、キミと話す場所を儲けてやるって言われてずっと待ってたんだ｣
待っていた……ねえ？
やはり硝子の差し金だったのか
｢私に腹が立って口を利かないのはまだ我慢出来る。でも、目も合わせてくれないのは堪えるんだ｣
＿＿ああ、ダメ
私の目の前で申し訳なさそうに眉を下げる傑が真っ黒な大型犬にしか、見えない。
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作者名：愛 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時：2023年10月4日 16時
