02.久しぶりのお説教 ページ38
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「してない! ……傑の思うような事、私想像してないから!!」
「____それはどういう話か詳しく聞かせて貰うぞ。傑。A」
その場にいるはずのない声に、心臓が嫌な音を立てた。
私と傑は油の切れたブリキ人形の如く、ぎこちない動きでたっぷりと時間をかけて声の方を向けば、丁度近くに落ちた落雷を背景にこみかみに青筋を立てる店長__もとい、夜蛾正道が仁王立ちしていた。
雷よりも恐ろしい物がまさか人間だなんて……だとか、一瞬心に余計な感動が生まれそうになったけれど、冗談言ってふざけている場合ではない。
「俺はお前たち二人に "店番をしていろ" そう頼んだはずだが?? 断じて店頭でバカップルを見せつける為ではない!!」
店長がそう声を荒らげた途端、今日一の雷が落ちて、あるはずも無い髭がビリビリと痺れた気がするのはきっと気の所為なんかじゃなくて。
硬い椅子の上だと言うのに、私と傑は二人揃って正座をして夜蛾(元)先生からのご尤もなお言葉を、身体を小さく小さくしながら聞く羽目になった。
__そういえば、帳を下ろし忘れたって理由で五条がゲンコツ食らってたっけ
ふと、あの頃の記憶が頭を掠める。
あの時の私は一人だけ留守番でざまあみろとゲンコツを落とされた五条に内心舌を出していた。それほどに彼の姿が滑稽だったのだろう。今思い出すだけでも、ほんの少しだけ吹き出してしまいそう。
「付き合うなとは言わん。だが、どちらか仕事だからと止めるべきだろう。…………仕掛けたのはどっちだ」
私は勿論傑を指さした。仕事中だからと私は彼を止めたのだ、その後無理に押し切ろうとしてきたのも傑だ。
それなのに、隣を見てみると何食わぬ顔で私の方を指さす傑にギョッとして目を見開いた。
「傑?!」
「キスしていいって顔をAがしていました」
「ちょっと?!」
熱を孕んだ眼差しを向けてきたのは彼の方だと言うのにこちらのせいにされても困る。しかし彼は頑なに自分は巻き込まれた側だと、首を縦に頷かせようとしない。
「静かにしろ二人とも!! 責任の押し付けをさせる為に聞いたのではない!!」
Aが、傑が。まるで子供の喧嘩のようにどちらが悪いか決められない状況に痺れを切らしたのは私でも傑でもなくて、黙って聞いていた店長の方だった。
「罰として暫くお前たち二人のシフトは被せないからな……」
「そうして貰って構わないです」
「え、ええ?! A、それはあんまりじゃないか?!」
店長の提案に即座に頷けば、傑が泣きそうな顔で私を見つめてきたけれどそんなの知るものか。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時