0.相談料は2カートン ページ36
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「硝子」
「2カートンで」
「勿論。……少し、私の悩みを聞いてくれないか」
晴れてAと付き合うことになったって言うのに、辛気臭い面して私の向かいの席に腰掛ける大男、夏油傑は私にタバコを貢ぐほど悩んでいる事があるらしい。
前世では、何も話さずに消えたことを考えると、些細なことでもこうして心の内側を話そうとしてくれる様子からして、人に頼る方法は覚えたのか。
悩みならお前の大親友に話してやれよ、とも思うけど、五条は性格上相談しても返ってストレスが溜まるだけ。彼女であるAに話せないこととなると、必然的に内容は絞りこめる。
「Aのことなんだけど……」
「……お前。彼女の悩みを普通その友達に話すか?? 相手が私だから、Aが気にしないから問題にならないけどなあ」
普通、親友に近しい立ち位置にいる私に二人きりで、休日のファミレスに呼び出しまでして聞く話なのかと、夏油の軽率な行動にダメ出しをしたくなったが、ここは我慢だ。
途中で言葉を詰まらせた私をポカンと間抜け面で見てくる夏油になんでもないと誤魔化す。
「私は生まれた時……というか物心着いた頃には既に前世の記憶があったんだ。硝子も恐らく……だろう? それに比べて今世での人生も性格も積み上げてきたAは最近記憶が戻った訳だけど……性格は上から塗り替えされるのかな」
「は?」
うっかり吸い始めたばかりの煙草を口から落とした。今の時代煙草は高級品だってのに勿体ないことしたな。
テーブルに落ちた灰を灰皿へと流し入れ、ナプキンでその後を辿る。
__まさかとは思うけど、Aが猫みたいな行動したとかそういう話か?
夏油の言わんとしている事は分かった。前世の性格の悪影響がなんかしらの形で今に出ている__と。
そんな話を持ち出されて、医者でも反転術式も使えない私じゃ、どうすることも出来ないけど。
「それで? お前みたいに猿は嫌いだとでも言い出したのか?」
「いや、違うんだ……そうじゃなくて。Aにスキンシップをしても反応がないんだ」
「へーーー」
心底どうでも良すぎてため息と混じった声が出た。夏油からすればそれはそれは重要な話かもしれないけど、私の時間を潰してまで相談したい内容が、彼女の反応が薄いって……バカにしてんのか??
__でも、
煙草を2カートンもくれるって言うんだ。解決法はなくても話だけは聞いてやらんこともないな。
「ちなみに何したの?」
「……キス、しようと思ったんだけど、顔近づけた瞬間両手で唇遮られてしまってね」
「フッ……」
どうしたらいい? 泣きそうな勢いの夏油に『しらん』三文字でこの話は終わった。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時