ナナカマド ページ35
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｢記憶戻ったんだってね。おめでとうA｣
｢ありがとう？ 硝子｣
ありがとうの後ろに疑問符を浮かべるAは『おめでとうで合ってるの？』小首を傾げて聞いてくるので合っているんじゃないか？ と私も疑問形で返した。
Aの記憶が戻った件にはどうやら冥さんが一枚噛んでいるらしくーー高い貸しが出来ただかなんだか……心底嬉しそうにしながら『困った』などと心にも思っていない言葉を零していた夏油のことを思い出す。
｢思ったよりもアンタの記憶は頑固じゃなかったって訳か。呪術師だった頃の記憶が全くないって事はあの世界に未練なんてない証拠だって思ってたんだけど｣
｢未練……うーん、本当は未練なんてないって思ってたんだけどね。最後の最後で引き留められちゃった｣
｢夏油があのまま無理やりアンタのこと落とそうとするなら本気で削ぐつもりだったけど、そうならなくて良かったわ｣
メスで捌くフリを見せるとAがころころ笑う。
高校の時からとはいえずっと私が側でAの笑顔を姿をずっと見てきた。血腥い記憶も痛みも知らず幸せそうに穏やかな日々を過ごすこの子を。
＿＿もしもAを泣かせてみろ夏油。呪いよりももっと怖い思いさせてやるからな
世の中には『知らなくて良い事』が沢山ある。だから私は記憶を引き出そうとしたり、触れるような言動はせず、静かに隣で見守り続けた。まさか大学で夏油や五条にまでも会うとはね。とんだ誤算だよ。
＿＿夏油には悪いけど、私はAの記憶。戻らなくても良かったよ
＿＿新しい自分になるって言うのは、そういう事だろ
前世どころか昨日の出来事のように覚えている私達がまず異常なんだ。普通はそうじゃない。
Aが傷つく事になるのなら、早めに辞めさせるべきだとすら思えた。『いつまで過去の女引き摺ってんだ』とあの変な前髪毟り取る勢いでな。
けれど、何気ない会話を繰り広げながら、眩しいほどの笑顔を浮かべるAに夏油の選択肢は間違っていなかったのだと、悔しいが認めるしかない。
｢あーあ。とうとうAは夏油の物になっちゃったか｣
＿＿前世じゃ十年前近くAと一緒にいた癖に。早々とかっさらって行きやがって
｢ううん？？ 私、傑のものになってないよ？？｣
何言ってるのと言わんばかりの顔をするAにそういう意味じゃないよ、と言っても多分伝わらないだろう。まあ、そんなことは重々承知だけどさ。
｢＿＿いや。こっちの話｣
＿＿なにはともあれ。アンタが幸せなら、私はそれで良いよ、A
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作者名：愛 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時：2023年10月4日 16時
