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『占いなんて興味ありません』と伝えようとした言葉は、夏油くんの食い入るような『お願いします』の一言で掻き消されてしまった。
美人には目がないのね、そう出かけた余計な言葉は飲み込んで。
昼間だというのに、占いをする場所だからなのか間接照明だけしか置かれていない薄暗い店内に、目は物珍しいものを探すかのようにキョロキョロと忙しなく動く。
「此方の席に座って待っててくれるかな。今紅茶を入れてあげるよ。__ああ、待ち時間が暇だと言うのなら、テーブルの上の紙に名前と生年月日、血液型を書いておいてくれるかな。その方が占いをしながら確認しやすい」
こっち都合は無視なのか。どうせ適当な事を書いたところでバレたりしないだろう。占いは所詮占い、この人も仕事なのだと割り切って考えるしか他ない。
「__あ、そうそう。嘘は書いてもムダだよ。人間観察も趣味の一つでね、嘘はすぐに分かる」
__心でも読めるの?! この人!!
ブスくれた表情で途中まで書いていた嘘の情報を書き直していれば『おや、本当に嘘を書いていたんだね』後ろから手元を覗き込まれて。ツンと唇を尖らせ黙っていれば、隣で静かに座っていた夏油くんが突然吹き出した。
「ああ、キミはもう既に書き終えているみたいだね。それじゃあ、始めようか」
女性は私と夏油くんそれぞれの手から紙を抜き取り、向かいの席に腰を掛けた。始まりの合図を告げた途端、気のせいかもしれないが部屋に焚かれているアロマの匂いがいっそう濃く漂ってきた気がした。
*
「納得いきません」
「納得いかないと言われてもね。私は自分で占った結果を伝えただけだよ」
前世の魂の繋がりが深いだとか、相性はとても良いから理想のカップルになるだとか、出された結果はどれも夏油くんにとって都合の良い言葉ばかり。
「夏油くん正直に言って。買収したでしょ占い師さんのこと」
「幾らで私を買収してくれるのかな? 因みに私は高いよ」
『高い』と言いながら指でお金のサインを決める占い師に話がややこしくなりそうな気がして、一度頭をリセットさせようと思い、出された紅茶を一思いに飲み込んだ。
「じゃあ別の、」
『占いを』言いかけて途端に視界がぐらついた。隣に座る夏油くんが必死に私の名前を呼ぶけれど、音が意識が、遠のいていく。
「彼女に……Aに何をしたんですか、冥さん」
占い師__もとい、冥冥は人差し指を自身の唇に当てて、静かに。夏油に音量を下げるように告げる。
「大丈夫、二時間程で効果は切れる。少しの間、彼女には夢を見てもらうだけだよ」
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時