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「" 今 " のキミは "何処" までなら許してくれる?」
夏油くんは、口を塞いでいた私の手を掴んだまま自身の顔に近づける。何をするのかとそのまま見ていれば、猫が甘える時のようにうっとりと目を細め頬を擦り寄せた。
目を見開くような行動に、触れている指先はじんわりと熱を持ち始め、彼の手から逃れようにも到底力では適わなくて、遊ばれる。
「げ、げとうくん」
キャパオーバーだ、こんなの。
指先から伝った熱は既に全身を巡って。顔面からは火が出そうな程に熱くて、鏡を見なくとも分かる、私は今絶対にタコさんウインナーよりも赤い。
「お客様かな? それとも店の前で周囲にイチャイチャを見せつけるカップル? どちらにせよ、これ以上店の前に居るようなら、無断停止料を取ろうか」
見知らぬ第三者の声に、ハッと目を瞬かせ渾身の力で夏油の身体を突き飛ばした__とは言えど、鍛えた経験もない非力な私が鍛え抜かれた彼のの身体を押したところで、そう簡単に尻もちを着く訳もなく。
突然突き飛ばされ、邪魔をされ、不満そうに唇を尖らせた夏油は、空気を断ち切った第三者の方へ、鋭い視線を向けた。しかし、その鋭い眼差しは急に驚きや戸惑いと言った表情へところりと変化する。
「ご、ごめんなさいあの、直ぐに私と夏油くんは立ち去りますので、その迷惑料的のは……あの……ほら、夏油くんも謝らないと!!」
「…………夏油くん?」
Aの言葉に第三者__女性は片側の柳眉をほんの数センチ釣り上げ、『夏油くん』と呼ばれた男の顔、そして呼んだAの顔をマジマジと観察しては、紅を纏う形の良い唇を三日月に歪ませる。
Aは、呆然と立ち尽くす夏油に『謝らないと』そう呼びかけるも、彼の視線の先は女性に釘付け。
__ほんの数分前まで、私しか見てなかったのに
__綺麗な人の方が、いいんだ
__ふうん。別にどうでもいいけど
途端に何故か腹立たしくなる。名前を呼んでも反応を示さないほど釘付けになる理由も分かる。それ程綺麗な人なのだから、流石の夏油くんも目を離さずにはいられないんだろうな。でも、それでも。
__私が居るのに、他所なんて見ないでよ
……なんて。私が言える立場でも、言う理由も全くないのにね。
彼によって齎された熱は意図も簡単に冷えていく。掴んでいた彼の服の裾をそっと離してもその手を追われる事はなくて。
「__これもなにかの縁、なんだろうね。特別サービスで視てあげるよ」
踵を返そうとした矢先、コツコツとヒールの音を鳴らしながら女性は入口と思わしき扉に手を掛け、私達に振り返った。
「私はこれでも占い師でね。よく当たると有名なんだよ」
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時