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原宿まではあと二駅ほど。それならば電車に乗るよりも歩きながら、外の空気を吸いながら目的地までどうかと夏油は提案する。Aは先程の事もあってか、二つ返事で了承した為、二人はそのまま改札を後にした。
顔色が良くなったと言えど、多少ふらつきを見せるAを庇いながら歩調を合わせて歩く夏油にAはいたたまれなくて、また小さな声で『ごめんなさい』と口にする。
「気にしなくていいよ。人混みが苦手なのに交通手段に配慮をしなかったのは私の方だから」
「わたし、人混み苦手って言ったっけ……?」
「ああ、すまないね。 " 前世 " のキミがそうだったから、そうなんじゃないかと思って」
でも当たっているだろう? と確信を持った彼の言葉に返事代わりに小さく頷いた。
チラリと自分の左肩に目をやると二回りほど大きな彼の手が私の肩を支え、反対を向けば彼の逞しい胸板があって、耳を済ませずとも、心音が聞こえてきてしまう
私たちの間には言葉のやり取りはなくて、ハンカチを口に当てたままの私の姿から、会話は酷だと思ったのか、話し掛けてこようとする素振りは感じない。
そのせいか、すぐ側で聞こえる彼の心音に気を取られてしまう。
__どうしたんだろう、私
恥ずかしくて思い出したくもない醜態。無意識に夏油くんの胸板にまるで恋人が甘えるように頬を寄せてしまった。それだけならまだしも、彼の心音を聞いていると、何故か無意識に私の身体の重心が彼により掛かろうと右にズレ始める。
人の……ましてや他人の腕の中に入りたいなど、こんなのはまるで痴 女じゃないか。
嗚呼、忘れたい。消し去りたい。出来れば私のだけではなく、彼の記憶からも抹消したい。
「……あの、夏油くん。さ、さっきのこと、なんだけど」
「さっき?」
「駅のホームでのこと!! ベンチでその、私が……」
歩いていた足をピタリと止めて、なるだけ夏油くんの方を見ないようにしながらハンカチ越しにモゴモゴと聞き取りづらい音がその場に留まる。
「Aが私に頬ずりしてきたこと? それがどうかしたの?」
「ちょ、ちょっと夏油くん!!」
折角人が小声で話していたというのに、あっけらかんと話す夏油くんの口を慌てて塞ぐも意味など殆どなくて。恥ずかしさでどうにかなってしまいそうな私と『弱みを握った』と言わんばかりに意地悪く笑みを浮かべる彼。
「可愛かったな……緩んだ表情で私の胸元に顔を寄せてきて。あの流れならキスの一つや二つ、した所で冤罪だったのに」
空いた片方の手が頬を滑り下唇の輪郭を確かめるようになぞる。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時