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「ごめんね、気分を悪くさせるつもりで言った訳じゃないんだ」
面と向かって吐かれた言葉の鋭さに、作り笑いを浮かべることしか出来なくて。ツンと唇を尖らせた彼女は、やっぱりねと何処か寂しそうに肩を落とすと、私よりも先に改札の中へ。釣られるようにして私も改札を潜り抜けた。
平日の昼と言えど混雑する地下鉄。ただでさえ空気が薄く、独特な臭いの立ち篭める車内は意図せずに人との接触も増える。
最初は隣で吊革を掴んでいたAを、暫く開かないからという理由で扉側へと移動させ、壁になる形で私が彼女の前へと立つ。
「…………げとうくん、原宿まであとどれぐらい?」
暇潰しにつり革広告に目を通していると、酷く弱弱しい声が名を呼ぶ。声の主へと目線を落とせば口元にハンカチをあて、グッたりとした様子のAに夏油のこめかみを汗が伝う。
「……次の駅で降りようか」
睫毛を伏せた彼女は一度浅く頷き、『ごめんなさい』小さな声は、震えていた。
*
「はい。お水買ってきたから飲んで」
酔いが相当酷いのか、今にも倒れそうなAの背中を支えてやりながら開けたペットボトルを宛がえば、喉を鳴らして少しずつ小さな口に吸収されていく。
汗で張り付いた前髪を払ってやり、噎せないように時折背中を摩りながら介抱していると、ペットボトルの水が半分になる頃、Aの顔色は元通りに。
__ルートを少し考えるべきだったか……
彼女のことだ、今まで自然と人が集まる場所に行こうとした事はないのだろう。体調不良の原因は恐らく人酔い。
近くに居たのに、彼女に言われるまで変化に気づけなかった自分が不甲斐ない。咄嗟の判断で下車したけれど、もしかしたら彼女は限界まで耐えていたかもしれない。
「ありがとう夏油くん」
自己嫌悪に陥っていれば、介抱のためとはいえ私の腕の中にいた彼女が、ふにゃりと笑う。
初めて向けられた表情に、情報が追いつけず目を数回瞬かせていると、胸元にAの額が触れて。
甘えるように私の胸元に頭を預け、ほっと息を吐くA。ぎこちなさのない、自然な動作に、私の頭は益々追いつかない。
「…………A?!」
「__えっ、あ、あっ、あ?!」
夏油に名前を呼ばれ、自分が何をしでかしたのか気づいたAは慌ててベンチから立ち上がり、頭を抱えて地面へしゃがみこむ。
「ご、ごめんなさい!! 疚しい気持ちがあったわけじゃないの!! あの、そのっ……とにかくごめんなさい!!」
わっ、と背を向けて謝罪の言葉を紡ぐ彼女の耳はわかりやすすぎるほど赤く色づいていた。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時