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「こっ……」
夏油くんはもしかしなくてもロマンチストなのだろうか。流石、人気のある男性は知識の幅は一般人とは比較にならない。ご丁寧に私のお気に入りのピアスの石言葉を説明してくれた所申し訳ないけどもう今後夏油くんの前でこのピアスをつけることはないのだろうな。
こじつけのように夏油くんと出会った日以降の話を持ち出されても。かと言って別のにしたらしたで『あれ? 私に言われて意識しちゃった?』と意地悪く笑うのだろう。
…………ああ、なんだろう。夏油くんの行動パターンをなんとなくではありながらも理解して来ている自分が恐ろしい。
「生憎、恋をする予定はないです」
私は夏油くんに気が無ければ興味もない。予感は予感でしかなくて、絶対に起こるものでは無い。
「ふふ、そうだね。恋はするのではなく "落ちる" ものだからね」
「そういう意味じゃなくて……」
ダメだ、夏油くんはとんでもなくポジティブな人だということを忘れていた。このまま彼のペースに乗せられて雑談を繰り広げていたら終電はあっという間、彼の思惑通りになる。
まだ色素の薄い紅茶を彼に押し付けてしまおうかと悩んでいたその時、インターホンが鳴り響く。
出ようと身体を扉の方へ傾けると夏油くんの手がやんわりと遮り『私が確認するよ』部屋の中にいてね、とリビングへ追いやられる。
__こんな時間に誰なんだろう?
親戚は近所にいないし、硝子は連絡を必ずするから可能性としては低い。となれば、全くの赤の他人の可能性が高く、危険性も伴う。
__ああ、だから夏油くん代わりに出てくれたのかな
仕切りの影に隠れて夏油くんの大きな背中を眺めていると、その背中が大袈裟に上下し、ゆっくりとこちらを振り返った。すれば、扉の向こう側の人と視線が交わる。
「A先輩! コレ筑前煮です!うちの親が持っていけって言うんでお裾分けしに来ました!! 次いでに、夏油さんのことも回収しろとの
「……だ、そうだよA。残念だけどお茶はまた今度貰うとしようかな」
ため息を吐き、ぶつぶつと呟きながらすぐに荷物を纏めた彼。こうもあっさり引き下がるとは思いもしなくて、その命とやらを下した人に会ってみたい興味すらある。
「じゃあねA。戸締りは忘れないようにするんだよ」
__と、差し出された右手。それ位ならと妥協してしまったのが運の尽き。触れたのは指先ではなく背中。耳のすぐ側で熱い吐息が零れて。
" 抱きしめられている " のだと気づくのにそう時間はかからなかった。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時