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「どうぞ」
たいして広くもない部屋に渋々夏油くんを通す。彼の大きすぎる身体では、私の部屋のアイテムがかなり小さく見えて、普段使っているミニ座布団がまるでお子様サイズ。
込み上げてくる笑いをなんとか喉の奥で留めて、来客用にと戸棚の奥のコップを取り出す。チラリと待たせている彼を肩越しに見つめれば、引き出しの上の写真立てを眺めていて、特に何かをする様子はなさそうな事を確認して、再び戸棚へ手を伸ばす。
__インスタントコーヒーでいいかな……
数分前、水道水しか出さないと啖呵を切ったものの、流石に水では夏油くんに失礼な気がして、インスタントコーヒーと睨めっこ。
もしここで私が『夏油くんコーヒー飲める?』なんて質問をしたら『おや、水じゃなかったのかな?』笑いながらそう返してくるに決まっている。
考えても埒が明かない事は考えない、彼がもしも嫌いだとしても無言の圧力を掛けてさっさと飲ませて部屋から追い出せばいい。
「紅茶があるのなら、私は紅茶がいいな。勿論、ダージリンね」
耳許に吐息が掛かって、肩が跳ねる。驚いた拍子に手から滑り落ちたインスタントコーヒーの袋は背後に立つ夏油くんが見事キャッチ。『危なかったね』と、笑いながら言う彼を首だけ振り返り睨みつけた。
「夏油くん?! 私、座って待っててって言ったよね?! それなのになんで私のすぐ後ろに立ってるの??」
「一応声は掛けたんだけどね、随分とキミが悩んでいたから私の好みを教えてあげようと思ってね」
「だからってわざわざ耳許で言う必要はないでしょ」
油断も隙もない。交えていた視線を逸らし、図々しい彼の注文通りティーパックをコップの中へと落とす。時計の秒針の音だけがいやに大きく聞こえるこの部屋で、溶けだす色素をただ眺めることしか出来なくて。
「__ねえ、前から一つ聞きたかったんだけど。付けているピアス、ムーンストーンだよね?」
沈黙を破ったのは夏油くん。
「……そうだけど、よく知ってるね」
自身の誕生石で、デザインも気に入っているから付けているムーンストーンのピアス。
身長差もあり、真上から見下ろされる圧に耐えかねた私は半歩、夏油くんの前から身体を移動させた。
「意味は?」
「え、意味……?」
「おや。パワーストーンとして身につけている訳ではなかった? 私がキミに " ピアス開けているの? " と聞いた日からピアスを変えてきたからてっきりそういう意味だと思っていたんだけど」
口許に手を当てて、くすりと微笑んだ夏油くんは『教えてあげようか』私が開けた半歩は一気に詰め寄られて。
「ムーンストーンの石言葉はね " 恋の予感 "だよ」
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時