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私が『分かりません』と答えると男は肩を下げて益々残念そうな表情と声色で『そうか』とだけ答えた。
私達の間に微妙な空気が流れる中、夜蛾さんは咳払いを一つ。
｢まずは自己紹介からしたらどうだ。A、俺が面接の時に言った、お前と同じ大学で同い歳の男というのがこ｣
｢夏油傑です。 ……もしかしてだけど、名前にも聞き覚えがないかな？｣
｢傑……まだ俺は説明の途中だ｣
期待の籠った眼差しで尋ねられても、知らないものは知らないが、彼の苗字には聞き覚えがある。同じ大学で、『ゲトウ』さんといえば、噂をよく耳にする彼ぐらい。
｢聞き覚え、あります｣
｢本当かい？！ じゃあっ｣
｢一緒の講義、受けていますから……大学にいれば嫌でも耳にしますから。私の知っている " ゲトウさん " と貴方が同一人物かどうかまでは存じ上げませんが｣
｢……っ、そうか｣
名前を聞いたことがあると告げた瞬間、彼の背後に幻だとは思うが花が見えた。それ位に明るい表情で声色で、嬉しそうで……私が彼を知っていると、何か彼に都合が良いのだろうと私はそう思い込むことに決めた。
こちらとしても、噂の『ゲトウ』さんの顔を把握出来たことだし、大学で例えバッタリと会っても話すことは無いので話しかけられないように避ければ良いだけの話。
｢傑。話は一度終わりでいいか？｣
｢……はい、すみません、私情を持ち出してしまって｣
彼が自己紹介をしたのだから私もと口を開いたところ、ゲトウさんがニッコリと人好きのする良い笑顔を浮かべて『知っているから大丈夫だよ』当然のように返されて、恐らくその笑顔を見たら世間一般の女性は落ちてしまうほど素敵だったが、何故かそれを向けられた私の腕は、鳥肌がたっていた事を、誰も知らない。
*
｢お疲れ様｣
｢お疲れ様です、ゲトウさん｣
研修中だと言うこともあり、入り時間も退勤時間も彼と同じだった。お店の外に出ると、彼が外でスマホを弄っていたので軽く挨拶だけして帰ろうと彼に背を向ければ、肩に違和感。
｢あの……さ。もし良かったら連絡先、交換しないかい？｣
｢結構です。夜蛾さんの作ったグループがあるじゃないですか｣
｢もしキミが熱を出して、代わりを探すとなった時に私が出れる事も出来るし、その逆だって可能だろう？｣
｢…………そう。それは一理ありですね｣
体調不良になった場合を確かに考えてはいなかった。彼にこの先頼むことになる事は恐らくないが、それでも欠勤のままよりかは良いのだろう。
｢バイトのこと以外でも、連絡して構わないからね｣
｢大丈夫です。そんな事しませんので｣
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作者名：愛 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時：2023年10月4日 16時
