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「はい! 自分は夏油さんの後輩です! あ、でもAさんの後輩でもありますね!!」
後輩と言っても、中学や高校が一緒な訳では無い。彼が私の通う大学を受験するからか、時々私のことを先輩と呼ぶのだ。一つ歳上なだけな私をわざわざ先輩呼び、しなくても良いのに。
「灰原くんは気が早いね……」
「ところでお二人はこんな時間まで何を? ……あ、もしかしてデートの帰りでしたか?!」
「そんな、」
「うん。実はそうなんだ。途中で彼女が眠ってしまってね。おぶってアパートまで私が運ぶ途中なんだ」
__この男!!
明らかに私の言葉に被せてきた男のお団子を小突いてやった。嘘をつくな、嘘を。
灰原くんは目の前の男の言葉を疑うことなく、目をキラキラと子供のように輝かせながら『流石夏油さんです!!』何故か彼を褒め称えはじめる。
純粋無垢な彼を騙すなんて、良心が傷まないんですか夏油くん……。
「夏油くん、もう降ろして。アパートすぐそこだから。……荷物もありがとうございました」
夏油くんからひったくるようにバッグを取る。運んで貰った分際でお礼一つで終わらせるのはあまりにも失礼な事は承知の上。しかしこれ以上夏油くんをこの場に居させない方が賢明な気がして、広々とした背中をグイグイ押して『帰って』と力を込めてもビクともしない。
「……酷いなA。こんな時間に私一人夜道を歩けって言うのかい??」
小首を傾げて子犬のように目をうるうるさせ如何にも『私怖いの苦手』という表情を浮かべる夏油くんの背後に、きゅるん、なんて漫画の効果音みたいな文字が見えたのは恐らく気のせいじゃない……。
「夏油くんみたいな屈強な男の人にケンカ売る人も幽霊も居ないから安心して帰ってください」
「あ! ならA先輩が夏油さんを駅まで送り届けるのはどうでしょう!!………あー、でもA先輩確か方向音痴でしたよね。じゃあ無理か」
「サラッと失礼なこと言ってるの気づいてる? 灰原くん」
「私はどちらでも構わないよ。 ……ああでも、今こうしている間に私の終電がなくなってとま、」
「水道水。それしか出しませんから」
どさくさに紛れてなにを言うのかと思ったら……まだ知り合ったばかりの人__しかも異性を泊めるほど私は軽い女ではない、本来なら部屋にだって入れるつもりない。しかし、此処で私が彼を置いて行ったとしても、インターホンを永遠に鳴らされる図が容易く想像出来てしまい折れるしか他ない。
「……夏油くんって実は結構図々しいんですね、知らなかった」
「ふふ、そういうキミはいつになったらつっけんどんな態度じゃ無くなってくれるのかな」
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時