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自分の身体が揺れている感覚で目を覚ました。徐々に冴えていく視界に映るのは烏のように真っ黒な髪と、筋肉質でいてしっかりとした背中。
触れている体温の心地良さに、落とされないよう首に回していた腕にぎゅっと力を込めると、切れ長の瞳が振り返る。
「突然抱きついてくるからどうしたのかと思ったら。目が覚めたのかい? おはよう…………と言っても、もう既に夜だけどね」
「げっ、夏油くん?! __って、ごめんなさい、降ります、降ろして下さい!!」
やたら目線が普段よりも高いことや、不自然に身体が揺れる原因が何かと思えば、夏油くんに背負われていて、慌てて降ろしてほしいとお願いするが、彼は薄く笑みを浮かべるだけで『暴れたら危ないよ』と降ろす気配は全くない。
今日は講義が終わったあとバイトに行って、夜蛾さんに本棚の掃除と買い取った商品の整理に追われて、それから__……それから?
__ダメだ、完全に記憶が無い。もしかして、寝ちゃったのかな
それならそれで、怒鳴るでも声を掛けるでも、起こしてくれればいいのに。
「あまりにも気持ちよそうに寝ているキミを起こすのは可哀想だと思ってね。流石に家に着いても起きなかったら私の家に行くしかなかったけど、残念」
「冗談が冗談に聞こえないんだけど……」
「うん? 私は冗談を言ったつもりはないよ?」
そう言うや否や私の両足を支える腕に力を込める夏油くん。再び進み始めた脚はかなりのスピードで、もう目の前に見えてきている私のアパートを横切りそうな勢いに、サーッと血の気が引いていく。
「け、警察!! 警察に通報しますからね?! 誘拐されるって!!」
「ハハハッ、警察?? 絶対に相手になんてしてくれないと思うよ? 大学生のカップルの痴話喧嘩に巻き込むなーって怒られて終わりだと思うけどそれでも通報するのかい?」
「だっ、誰がカップルですか! 付き合ってませんから!」
ケラケラ笑う夏油くんにこのまま連れ去られるのは勘弁して欲しくて、せめてもの抵抗で暴れてみても一切効果なし、無駄に体力を持っていかれただけで、肩で息をする私。
「__あれ? 夏油さん? 夏油さんじゃないですか?!」
弾んだ声が聞こえて私と夏油くんは声のした方へ目を向けると、ビニール袋を片手に持ち学ランに身を包んだ少年が私たちの元へ。
「灰原くん??」
「あれ? A先輩もご一緒だったんですね! お二人ともこんばんは! !」
声の主は近所に住む高校生の灰原雄くん。『奇遇ですね!』と、私"たち"に彼は笑いかける。
「夏油くん灰原くんのこと知ってるの?」
「え、 …………ああうん、後輩なんだ」
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時