とある夢 ページ18
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身体が、重い。
『____!!』
誰かに呼ばれている気がする。
誰かの足音がする。
誰かの気配がする。
起きなくちゃ、立ち上がらなくちゃ、そうどんなに思っても、起き上がることは疎か、目蓋を開けることすら出来ない。金縛り……なのか、声を上げようと試みても油の切れたロボットのような私の身体は、腕を動かすのも精一杯、開いた口は、金魚のようにパクパクと無様に開閉するだけで音も出ない。
『____?!』
すぐ側まで来た足音が再び何かを私に問い掛ける、けれどおかしな事に何も聞き取れない。聞こえてはいるのに、耳の中に水の膜でも張られているように、その人の声がボワボワと反響して泡みたいに弾けた。
身体を揺さぶられ、上体を起き上がらされて。大きな岩みたいなものが私の身体に影を作る。
『__っ、』
動くことを忘れていた身体に漸く力が入り、私の口から微かに言葉が漏れ出た。誰かに制御でもされていたかのような感覚は忽ち無くなり、やっとの事で重たい目蓋を持ち上げると、視界の先に捉えたのは逆光で顔の見えない、恐らく男性と思われる大きな手と高い体温。
__なに、聞こえない
聴覚だけが戻らないのか、やはり言葉はパチンと弾ける。
土の香りがいやに鮮明でいて、頬を撫でる風の感触も生々しい。
目前の男は、突然黙り込んでなにも言わなくなった。動かすことは出来ても手足の自由が利くだけで、この男に支えられていないと体勢を保てない私は、男に抱えられたまま、周囲へと目をやる。
木造建築の古びた校舎、恐らく中庭と思しき場所、花壇に並ぶ色とりどりのペチュニア。
__見たことが、あるような……
私の育った小学校でも中学校でもない、何処かの古びた場所でどうして私は意識を失っていたのだろう。見た事ないはずの場所なのに、何故か懐かしさすら感じる建物。
__デジャブ??
『__、』
木の根のように絡みつく違和感の正体を考えていると、再び私に男が声をかけた。視線を元に戻せば、節くれだった無骨な指が頬に触れ、頭を撫でた。
__あたたかい
見知らぬ他人に触れられているというのに、掌から伝わる熱の心地良さに目を閉じれば、男が笑ったような気がして。
__『おやすみ。A』
輪郭の捉えられなかったはずの男の声がハッキリと聞こえた瞬間、意識は奥深くへと沈み濁流に呑み込まれた。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時