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ダメだ。私から夏油くんに気になることを聞いてみたのは言いものの、だんだんと頭が痛くなってきた。
彼が私に拘る理由が前世が『家族』という理由だったとは。顔に出ていたのか、夏油くんは私の方を一瞥するなり慌てて『兄弟ではないから安心して欲しい！』などと訂正を入れてきたけれど、問題はそこではありません。
｢……まさかとは思いますけど一夜の過ちでデキ婚しちゃった仲だから恋人じゃなくて家族とか｣
｢違うよ、断じてそんな猿共がやりそうな低レベルな事はしない。家族というはね、同志達の事を指して言っているんだ。同じ理想の世界を作るために＿＿まあそれは、叶わずに終わってしまったけどね｣
｢そ、う｣
彼の言う『家族』の意味がわかり安堵する。私が想像するような疚しい関係でも拗らせた関係でもないのならそれでいい。
前世の私はいったいどんな『理想の世界』を作りたかったのだろう？ 彼は以前こうも言った『高校を途中で辞めた』と。中退しなければならないほどの事情を抱えるほどのこととは。
そもそもの話『前世』とやらが想像つかないのだが、きっと前世は今私たちが過ごしている世界とは異なるもので平穏なんてものは、ほんのひと握りのとても小さな欠片でしかなかったのではないのか。
｢この世界はあの頃とはだいぶ＿＿いや、かなり違う世界だ。私はね、A。記憶を持って生まれてきたという事実は、前世でなし得なかった事をする為にやり直すチャンスだと思うんだ｣
｢あの古本屋で会うまで私の事探しに来なかったのに？｣
｢うっ……そ、それは｣
ほんの少し意地悪のつもりでそう言えば、彼はあからさまに困った表情を浮かべて口篭る。探しに来てくれなかったことに対して怒っているのではなくて、これは彼に対する迷惑料のようなもの。これからもっと話したいと言うならこれ位言っても怒られないだろう。
｢すぐるー……って、悪い、お取り込み中？｣
本棚の隙間から顔を覗かせるのは、派手な白髪の人物で。彼＿＿ゴジョウさんは夏油くんと私を順番に見て『喧嘩でもした？』と笑ってしまいそうなのか、肩をぷるぷると震わせるゴジョウさんに首を横に振る。
｢ゴジョウさんはご存知ですか？ 貴方の親友の夏油くん凄くユニークな方なんですよ｣
｢ふはっ、前髪が？？｣
ゆっくりと顔を上げた夏油くんは湿った視線をゴジョウさんに向けて『うるさいよ』と一言。
｢いいえ。夏油くん、前世のお話をされるんです｣
親友である彼にならこれ位バラしても良いだろう。しめしめとした気持ちで告げた私の言葉にゴジョウさんの口元は綺麗に弧を描く。
｢知ってるよ。だって俺も前世の記憶あるから｣
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作者名：愛 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時：2023年10月4日 16時
