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あれから、私は出来る限りの範囲でゲトウさんを避けに避けた。もう私からするとゲトウさんは恐怖の対象でしかない。ゲトウさんは話せば話す程、内面に私が想像しきれないとてつもない闇を抱えているのではないか。
彼の視界に入らないことは前提に、アルバイトの時間も、大学の講義の時も。人が多い大学ではゲトウさんのように高身長尚且つ目立つ人間ほど有難いことはない、探す手間が省ける。
「……おい。お前、傑のこと避けてんだろ」
大学の食堂で硝子を待っていると、不意に肩を叩かれ振り返ればそこに居たのは白髪の目立つ人。硝子が教えてくれた名前は確か__
「ゴジョウさん……」
「さん付けやめろよ鳥肌立つだろうが!! ……ったく、急にしおらしくなりやがって。こっちの調子が狂うんだよ」
ゴジョウさんは肩を竦め、わざとらしく大きなため息を吐く。彼は空いている私の隣に腰掛け、細く長い指先を此方に向けて『薄情女』などと吐き捨てる。
反論の声をあげようとすれば、『でも』と彼は見越して言葉を重ねる。
「傑も傑だけどな。距離の詰め方といい、相手の話聞いてない感じといい。まるで…………」
「………まるで?」
口許に手を当て、明後日の方向へと視線を向けた彼は、ひどく小さな声で『だよなあ』一言呟き、再び此方を見据えると、ほぼ0距離の位置に顔を近づけて来た。
「っ!!」
「……つーかお前。ピアス開けてるんだな」
人は本当に驚いた時声が出ないのか、私の声は音に乗らずに、ただ金魚のように口をパクパクと開閉するばかり。視界に映る白く長い睫毛が、凝らす先にあるのは耳元に映えるムーンストーンのピアス。
__『あれ、キミ、ピアス開けているのかい?』
……既視感。何日か前、ゲトウさんにも全く同じ質問をされた。あの時の彼はかなり驚いた顔をしていたが、目前にいるゴジョウさんも彼と同じ表情を浮かべている。
ピアスを開けなさそうな顔に私は見えているのか、こうも短期間で尋ねられるとは……。
目と鼻の先にあるゴジョウさんに、意識してない相手とはいえ変にドギマギしてしまう。香水なのか分からないけれど、彼からは良い匂いがするし……。
すると、やっと見飽きたのか漸く離れて行く__矢先、鈍い音と同時にゴジョウさんの頭が沈んだ。
「____やあ、悟。楽しそうに何の話しているのかな?? 私も混ぜて欲しいんだけど」
血管の浮き出た太く筋肉質な腕が、私とゴジョウさんの間に割り込むようにしてテーブルに置かれ、その元を辿れば、とびきり良い笑顔なのに有無を言わせない圧を出すゲトウさんが立っていた。
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作者名:愛 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/dear_utsuk?utm_medium=url_text&utm_source=pro...
作成日時:2023年10月4日 16時