【A3!】演技じゃない、本当のキモチ。【短編小説】 (ページ3)

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可愛い王子様向坂椋ページ3

歩く度に僅かに聞こえる、床の軋む音。窓がガタガタと風で騒ぐ音。

いい年して真夜中のトイレで怖がるなんて。ここが本当の家じゃないからか、頼る人もおらずびくびくと震える。

自分の部屋まであと少し。そんなところで、ふいに人の気配がした。

「(誰……？)」

「………あの、だれかいるんですか…？」

「ひっ、ひぃ！！？あっ、」

突然の声に驚いて、思わず足を滑らせた。
転ぶ＿＿ !! とぎゅっと目を瞑ると、背中にするりと誰かの手が回った。

「か、カントクさん……ですか？」

「！その声…椋くん？」

「はい、ちょっと風で目が覚めちゃって」

重いであろう私を、なんの苦もなく支えてくれた椋くん。その腕は元運動部らしくがっしりとしていて、こんな天使のような子でも男の子なんだなぁと関心した。

「驚かせちゃってすみません、カントクさん」

「ううん、いいの。むしろ怖くなくなったっていうか」

「部屋まで送りますよ。………へへ、」

「椋くん？」

「…なんか、こういうの、少女漫画にあって。ひとつ屋根の下で暮らす男女が、こうして助けたり、添い寝したり……あっ、す、スミマセン！僕なんかがそんな男の人のようだとは思ってないんですけど、その、」

「…ふふ。王子様みたいだったよ、さっきの椋くん」

「ふえっ？！」

目をぐるぐると回してあたふたする椋くん。可愛いなぁなんて表向きに振舞う私。先程の椋くんのたくましい腕を思い出してそれから30分は寝付けなかったことは、内緒である。