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食べ終わって、
「…これいくら?」
「んー?さあね、」
「はぐらかさないで、私出すから」
「水ちゃんは大人しく俺に奢られといてよ」
一円も出させてもらえないまま店を出る。
あれいくらだったんだろ、支払いの時諭吉さんがたくさん見えた気がするんだけどな。
…私も今度何か奢ろう、
そう密かに決意しながら二人で歩く。
どちらも無言だけど、不思議と沈黙が怖くない。
このまま別れんのかなー、と思いきや
「水ちゃんは、主演のプレッシャーある?」
唐突に投げかけてきた平野っち。
月を見上げるその横顔はとても儚い。
前にもこんなことあった気がするな、
「…ないわけないよ」
女優って思われてなくて、毎日のように叩かれて。
誰よりも私が自分の実力に疑問を持ってる。
「毎日自信なくなりそうになってるし」
やっぱそうかあ、と空を仰ぐ。
「俺さ、デビューしてから色んな人にあれこれ言われてきてるから」
「自分に自信が持てなくなる時がある」
「今もそう、」
「俺に務まるのかな」
そう呟く彼の声は驚くほど弱々しかった。
正直に言うと、彼は弱音なんか吐かないと思ってた。
でもそれは、私が作り出した幻影に過ぎない。
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作者名:舞 x他1人 | 作成日時:2020年8月11日 0時