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「病院の外に出れたら絶対来ようって思ってて、今日ジョシュアさんにも出逢えたので満足です」

Aくんが着ていたエプロンが綺麗に折りたたまれているのをAくんがそっと撫でる。

「あー…ダメだ…何も分かんない。僕は皆の前でどんな人だったんだろう…」

苦し紛れにそう言うAくん。

咄嗟にエプロンの端を掴んでしまっていた。

『それ…着てみれば?』






「どう?」

『うん。すごく似合うよ』

カウンター奥から出てくるAくんはとても懐かしい姿をしていて、何故か胸が締め付けられるような感覚がした。

「こんなに可愛いエプロンを僕は着てたんだ…少し前の僕が羨ましい」

『……何も分からない?』

「びっくりするぐらい何も。でも自分でも分かってたんで、もう何も思いません」

寂しそうに笑う君を凄く抱き締めたくなった。
抱き締めて、俺がそばに居るって言ってあげたいのに言葉にして伝えられないのは俺の弱みなのかもしれない。

「すみません、こんなことに付き合わせてしまって。僕もう病院に戻ります。特に用事もなかったんで」

エプロンの紐を解いて、綺麗に折りたたむ。
ソファに置いていた荷物を取って、Aくんは出口へと歩いて行った。

今日しか出会えないって訳じゃないけど、引き止めなきゃって気持ちが強く昂った。

気付いたら俺もAくんの跡をつけるように走って追う。すると、信号待ちをしているAくんにフラフラしていて危なっかしい自転車が。

『Aくん!』

また彼を痛い目に合わせるのではないか。
また、記憶が消えてしまったら。

背筋が凍るくらいぞっとしてしまって、咄嗟に腕を引いた。彼を守るように自転車に背中を向ける。

Aくんは重心が傾き、其の儘俺の方に倒れ込む。すっぽりと俺の胸に収まる彼が凄く愛おしく感じた。

『大丈夫…?』

顔を覗き込もうと1歩足を後ろに引くと、服の袖を弱々しくAくんが掴んだ。

「…すごく怖かったです」

『うん。怪我してない?』

「…何も。でも、さっきジョシュアさんが僕の名前を呼んだ時、何故か助かるって思ったんです。凄く聞き覚えのある声で、安心、しちゃったんです」

ぽつりとひとつずつ言葉を絞り出すように話すAくん。
顔を俯かせ、俺の胸に頭を預ける彼の後頭部を見ながら彼の言葉を待つ。

「すみません。もう病院に戻りましょう」

『ちょっと待って…!』

直ぐに離れられ、引き留めようにも逃げるように先を歩いていってしまった。

伝→←意



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作者名:ピーナッツバター | 作成日時:2021年8月2日 2時

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