助 ページ19
.
｢様態は？｣
｢心肺停止の重体です。頭蓋骨にヒビが入っており、脳に影響を受けている可能性が高いかと｣
｢命に別状は？｣
｢まだ分かりません…｣
｢とにかくICUに運べ。緊急手術を行う｣
｢はい！！｣
救急車で病院に運ばれたAくんは、担架で医者に連れていかれる。
俺も救急車に乗車し、必死に看護師さん達について行く。
その間も手の震えは止まらないし、全身に血の気が回らない。
店主さんは俺の代わりに警察に事情聴取されに行った。
彼が酸素マスクをつけ、静かに眠る姿を見るとほんとうに儚くて、もう二度と笑顔を見れなくなるんじゃないかという不安に襲われる。
ICU室の奥に消えていった後からは傍にあったソファに座り込んで、取り敢えずリーダーに連絡を入れる。
少し遅れると言ってから携帯を閉じ、ただひたすら彼の無事を祈るだけ。
祈ることしか出来ない自分に怒りさえ感じるが、今はそれどころじゃない。
どうして俺は彼を守れなかった？
もう少し早く起きて早く来ていれば彼を止められたかもしれないんだぞ？
そう思うけれど、時間は戻らない。
更に小さい彼女の言葉を思い出した。
"お兄ちゃんが助けてくれたの"
"私の娘が横断中に暴走車が突っ込んできたんです。私も親ですが、止めようがなくて、子供は動けないし、もう無理だと思いました"
"そしたら、彼が娘を守るように飛び出てきたんです。お陰で娘は軽傷です。でも…！本当にごめんなさい……！！ごめんなさい！"
一瞬でもどうしてこの子を守ったんだと思った俺を殴りたい。
確かに守らなければAくんは今元気だし、俺もここに居なかった。
けれど其の儘だったらあの子は確実に死んでた。きっとあれ以上に悲惨な姿になっていたと思う。
Aくんは英雄だ。ヒーローだ。それと同時に馬鹿だ。自分の事じゃなくて他人のことばかり優先してる。
いつも一歩引いている。
俺とAくんが一時期離れるようになったのもAくんがファンの子を優先して、一歩引いたから。
あの時Aくんが1歩も引かずにレジに立ち続ければ、こんなことにはならなかった。
俺への怒りと同時にAくんへの怒りもふつふつと湧いてくる。
未だ明るいままの手術中というプレート。
時間は刻一刻と過ぎる。
心配で仕方がない筈なのに、時間を気にしてしまう俺もよっぽど仕事が好きなようだ。
病院の廊下に彼への怒りを置いて、俺は悔やみながらも練習室へ向かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 189人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ピーナッツバター | 作成日時：2021年8月2日 2時
