【完結】ロミオとシンデレラ【糸師冴】

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最近、糸師冴のプレーばかりを見てしまう。

大学の勉強の傍ら、流すサッカーの試合は糸師冴のいるチームの試合ばかり。どうしてなのかは、分からない。

来年になればまたシーズンオフになる。そこでもしまた会えたら、この感情にも答えが出るのかな。

溜息を吐いたとき、ノックの音が響いて顔を上げた。



「A、調子はどう？」


「ママ。大丈夫、捗ってるよ」


「それはよかった。良ければおやつにしない？ママ、パウンドケーキを焼いたの」


「食べたいな。すぐに行くね」


「ええ、待ってるわ」



母はこんな大富豪の奥方でありながら、自分で料理をしたがる。私の口に入るものを他人に任せたくないと言って。

その愛を素直に受け取ることを、最初は躊躇っていた。愛されすぎて自分がダメになるんじゃないかって。

でも拒めば母を傷付けることが分かっていたから、いつからか何も言わずに受け入れるようになった。



「お待たせ、ママ」


「ああ、A。紅茶とコーヒー、どっちがいい？」


「紅茶がいいな」


「分かったわ。酒木、紅茶を淹れてくれる？」



酒木は母専属の付き人。畏まりましたと言って部屋を出ると、暫くしてトレーにティーセット一式を乗せて戻ってきた。

2人揃って、紅茶と一緒にパウンドケーキに手をつける。



「ん…美味しい。ラムレーズン？」


「ええ。次はバナナのパウンドケーキにしようと思っているんだけど、どうかしら？」


「とってもいいと思う。作ったら食べさせてね」


「もちろんよ」



優しく頭を撫でる手に微笑む。



「玲王さんとはどう？」


「すごくいい人だよ。優しくて、頼れる人で」


「そうでしょう？きっと幸せにしてもらえるわ」


「…うん、そうだね」



幸せに。

そうだ。多分、幸せにしてもらえる。

でも本当にそれでいいのかな。



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