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それから更に半年弱が経った。春彦さんとは清いお付き合いのまま。
でも少しずつ、冴のことを忘れられていると思う。出掛ける度に冴と一緒だったなら、なんて考えることは少なくなった。
冬の乾いた空気に肌がピリピリする気がする。
「見て、スズメが膨らんでる」
「本当だ。可愛いね」
「ふふっ、うん」
絡んだ指先がほのかに温かい。春彦さんはずっと優しい。優しくて、私のどんなところも受け入れてくれる。
冴を忘れて彼を好きになるという計画は今のところ上手く行っていると思う。
優しい春彦さん。彼と一緒にいれば、きっと幸せにしてもらえる。
隣を歩くその横顔を見上げてみると、それに気付いた彼はふんわりと微笑む。そっと頭を撫でられて目を細めた。
「そう言えば、知ってる?日本で新しいサッカープロジェクトが動いてるんだって」
「へえ…どんなの?」
「何だっけ。名前はまだ出てないんじゃないかな。確かストライカーを育成する、みたいなやつだったと思うけど」
「そうなんだ。日本…もう暫く行ってないや」
「僕も。今度一緒に行ってみる?なんか僕ら、名前は日本人で日本語喋りもするのに、日本にいた時間が圧倒的に短いよね」
「そうだね。行ってみよっか」
バイトで貯めたお金が日本に行って帰って来るくらいは出来る程には貯まっている。
サッカーと聞いて思い出してしまうのは、当然ながら冴のこと。忘れると決めてからその動向を追ってはいないのだけど、今はどうしているんだろう。
そんなことを考えている間に、ターミナルに着いてしまった。
手を繋ぎ合って向かい合い、少し背伸びして顔を近付ける。お互いの息が触れる距離になったその時だった。
「っわ…!?」
「Aさん!」
「は、春彦さんっ」
誰かに強く腕を掴まれ、勢いよく引っ張られた。誰かを確認する前に春彦さんの方を振り返って手を伸ばしたけれど、腕を引く手の力に負けてしまう。
「ちょ、ちょっと!」
だれ、と聞こうとして、目を見開いた。
「な、んで…っ」
小豆色の髪、最後に会った時より伸びた背丈、無骨な手先。
されるがままに引きずられながら、大きく目を見開いた。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年2月24日 21時