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慌てて階段を駆け降りて、呆気に取られる家族の前を通り過ぎて庭へ向かう。

池の水面を見下ろして、帰る方法を考え始めた時。



「A…?どうしたんだ、」


「何かあったの?お母さんに話してみて」


「兄さん…」



俺を呼ぶ声に動きを止めて、ひとつ大きく深呼吸する。


ごめん。お父さん、お母さん



「……俺、もうこんなに大きくなったんだよ」


「え…?そ、そうね」


「俺、って…本当にどうしたんだA」


「身長も伸びて、勉強も出来るし、泣き虫は治んないけど、二級呪霊1人で倒せるくらいには強くなったし」



池の水面を見つめたままで、思い出をひとつひとつ置いて行くように『今』を拾い上げていく。

顔を上げる事もせずにただ淡々と言葉を並べる俺を、3人は何も言わずにただ見ていた。


一通り語り終えてひと息吐いた時、自分の姿が変わっている事に気が付く。

高専の制服。両脇には銃の重み、袖や靴にも金属の重さを感じて、ざわついていた胸の内が鎮まっていくのを感じる。



「Aくん、なぁにそれ…?」


「お母さん、お父さん」



漸く、顔を上げて2人の顔を見た。


僕ね、もう『俺』になったの。

2人の事も忘れて、同級生と楽しく過ごしてる。

だから____



「ごめんね。…邪魔、しないで」



パァンッと美しい庭にはそぐわない銃声が響いて、消えた。









ーーー









____......り、

__ひじり









「聖っ!」


「ッ!」



泥の中にいるような意識の中、鋭い声で名前を呼ばれて意識が覚醒した。

水を隔てたような籠った声。それでも僕を呼ぶ声に、真っ暗な辺りを見回す。



「聖!手ぇ出せ!」



冷たいものに包まれている感覚。それが水だと本能で感じて、ヤバいと思って声のする方へと手を伸ばした。

真っ暗闇の中で彷徨わせていた手を強く掴まれて思い切り引っ張り上げられる。

バシャンッと大きな水音と共に外の空気が触れて気管に酸素が入ってきた。



「っはぁッ!ゲホッ、ケホッ、はぁっ、はっ」


「聖!大丈夫か!?」


「はっ、はぁっ、はぁ…ッ一色、さん…」



何度も呼吸を繰り返して地面に倒れ込む僕を覗き込む彼は、先程まで見ていた彼とは余りにも違って。

思わず呼吸を止めてしまった。


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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2021年6月15日 14時

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