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「あ…おはよう、糸師くん。よかった、会えて」



翌日、家守は何も無かったかのように笑って現れた。

玄関を出た所で今やって来たらしい家守と出会し、駆け寄ってくるのを待つ。



「これ、本当にありがとう。昨日は急に降られちゃって困ってたの。玄関に戻しておくね」


「ああ」


「行ってらっしゃい。頑張って」



いつも通りの、淡い色合いのワンピース。

昨日のあれは幻覚だったんじゃないかと思うほど、いつも通りの態度。昨日のは一体なんだったと言うのか。

でも別に訊けるような間柄という訳でもないから何も尋ねる事はせず、行ってらっしゃいと手を振る家守に見送られてマネージャーの車に乗り込んだ。


車が発進するまで家守はずっとこちらを見守っていた。

発進した車の中、マネージャーに問い掛けられる。



「Aちゃん、どうですか?」


「どう、って」


「仕事ぶりとか。いい子でしょ?」


「…悪いやつじゃないのは元から知ってる」



まるで自分が褒められたかのようにヘラヘラとニヤけるマネージャーを睨み付ける。


そういえば。


本人には聞けないが、もしかしてこいつになら。

そう思って口を開いた。



「昨日…ずぶ濡れで訪ねてきた」


「はい?」


「真っ黒な服で…指輪も、してた」


「指輪…ああ……」



やっぱり何か知っているらしいマネージャーは顔を歪めてハンドルを握る手に力を込める。

何かを話すかと思っていたが、マネージャーはそのままゆるりと首を振った。



「僕からは何も。Aちゃんがいつか、きっと話してくれますよ」


「はあ…」



大きな溜息を吐いて外へ視線を移した。



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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時

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