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ピリリリリリ……
軽やかな電子音に意識がふわりと浮上して、眠気で重い手を頭上へと伸ばす。
少し勢いよく叩いたボタンによって電子音が鳴り止んで、ゆっくりと瞼を押し開いた。
「おはよう…」
誰にともなく呟いて朝の挨拶。
ゆっくりと体を起こして時計を見ると朝の8時。いつも通りの時間。会社員よりは遅いかな。
雨の音がする。パラパラと、頭上に降り注ぐ雨の音が。
抜け出したくない布団の中からもぞもぞと這い出て、ひんやりとしたフローリングに足を下ろした。
ベッドから掛け布団を剥ぎ、カーテンと窓を開いて空気を入れ替える。
パジャマのままリビングへ向かい、寝室と同じようにカーテンと窓を開いて換気。
それから。
「おはよう、
今度はちゃんと、チェストの上で笑っている愛しい人に向けて挨拶をする。
返事は返ってこない。
笑う彼を囲う額縁をそっと撫でて、水を替えるために花瓶を持ち上げた。
今日の仕事はお昼から。それまでに身だしなみを整えて、ちゃんと準備しなくちゃ。
頭の中で自分を叱咤して、怠い気がする肩をぐるりと回した。
＊
「こんにちは、糸師くん。すぐにお昼ご飯作るね」
「ああ、頼む」
最近知り合いの紹介で引き受けたハウスキーパーのお仕事。
掃除に洗濯、料理までを一手に引き受け、彼がお仕事をしている間にそれらの家事を代行するのが仕事だ。
まさか依頼主が中学の同級生だとは思わなかった。
今日は午後からサッカーの練習だそうで、お昼ご飯も作るのを任された。いつもは基本的に夕飯だけ。
キッチンに立ち、野菜をカットしながら口を開く。
「明日はいつも通り？」
「ああ」
「分かりました。あ、そういえば苦手なものって何かある？」
「…酸っぱいもの」
「分かった。じゃあ味付け工夫するね」
ありがと、と小さな声で返ってくる返事に微笑する。
私は家事が好きだから、この仕事は楽しい。
かつて実家に住んでいた頃はやる必要のなかった家事を初めてやろうと思ったのは、��あの人��と出会ったから。
糸師くんと、同じ音の名前だった人。
浮かんでくる懐かしさに目を細め、フライパンに野菜を放り込んだ。
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作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2024年1月27日 23時
