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彼のキスを拒めなかった。
邪魔になるとかそういう事が頭にはあるんだけれどそれが彼を拒むだけの理由にはならなくて。
それから、彼との関係は雇用関係から恋人へと形を変えた。
「ただいま」
「おかえりなさい。ご飯出来てるよ」
「ん。手洗ってくる」
彼は帰ってくるとまず手を洗いに行って、それからお皿に盛り付けている私の背後から私を抱き込み、手元をじっと眺めている。
そんな彼を促して食卓へ食事を運ぶとモリモリと食べ始め、私が洗濯物を畳んだり洗い物をしているのをまたじっと眺めていて。
食べ終わると今度は私の方へ寄ってきてぴとりとくっつく。
それが何だか可愛くて、最近は頭を撫でるのが好きだ。さらさらの髪の毛に指を通しては頭を撫でてを繰り返す。
「今日もお疲れさま」
「…おう」
ソファに座った私の膝の上、ぼんやりとこちらを見上げるその頭を撫でる。目を瞑ってお腹に抱きついてくる仕草が幼くて可愛い。
頭を撫でながら疲れを少しでも癒すために何か出来るだろうかと考えて、ハーブティーを持ってきていたことを思い出す。
「糸師くん、私お茶淹れてきていい?」
「は?なんで。後にしろ」
「疲れにどうかと思ってハーブティー持ってきてたの。一緒に飲もう?」
「ん〜…」
ぐずるのも可愛いけれど、このままだと帰れなくなってしまう。今日はニケを家に置いてきたから帰らないと。
「ほら糸師くん、ちょっと待っててね」
「む…」
「ごめんって」
何とか抜け出してキッチンへ向かい、花びら混じりの茶葉とお湯をポットに注いで1分半の砂時計をひっくり返す。
ソファに視線を移すと凛くんがむすりとしてこちらを見ているから苦笑と共に手を振った。
出し終わったお茶をトレーにティーカップと共に載せて運ぶ。ソファの上のローテーブルに置いて、カップにお茶を注いだ。
「ハイビスカスティー。ちょっと酸味があるけど、癒されるよ」
「花の匂い…赤ぇな」
「お茶っ葉にも花びらが入ってるんだよ」
「ふーん…」
隣に腰を下ろしてティーカップを傾ける。
こくりとひと口飲み込んで、2人揃って溜息を吐き出した。
「どう?」
「美味い」
「よかった。疲れに効くんだって」
「ん…ありがと」
「うん、どういたしまして」
カップを置いて擦り寄ってくる凛くんの頭をそっと撫でた。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時