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「燐くんは優しいから…きっと凄く献身的に、私を励ましてくれた…」
気にしなくていいんだよ。こんなの見ないで。そう言って私を人の悪意から遠ざけてくれただろう。
こんな事を考えて、また私は燐くんに囚われている。そう自覚しながらも止められない。
「燐くんなら、」
「さっきからりん、りんってうるせえ」
「え…」
突然の言葉に呆気に取られて糸師くんを見てしまう。
彼は遊んでいたニケを置いて立ち上がり、ズンズンとこちらへ歩み寄って来ると私を囲うようにソファの背に手を突いた。
なに、なにが起こってるの。
途端に心臓が爆音で鳴り始めるのを感じた。
近い。近すぎるんですけど。
そんな私を歯牙にも掛けずに糸師くんはじっと私を見下ろして言う。
「そいつじゃなくて俺を見てろよ」
「え…?」
どういう意味だろう。俺を見ろ、って。
勝手に都合の良い方に解釈したくなってしまうのを止めたくて、でもやっぱりそういうことなんじゃないかと期待してしまう。
ドク、ドク。
彷徨っていた手を、私を囲う腕に添えてみる。
「その『りん』じゃない。俺を、糸師凛を見てろ」
「糸師、くん…?」
やめて。そんなこと言われたら期待してしまう。
腕に添えた手は拒まれることなく、今度は額と額がくっつく。
「お前は…嫌か」
うそ。うそ。そんなのあり得ないと、思うのに。
「いや、じゃ、ない……」
柔らかく、唇が触れ合った。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時