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送られてきた新しい住所は立派なタワーマンション。中に入るとホテルマンがいて、エレベーターの扉を開いてくれた。
頭を下げて見送られるなんて久しぶりの感じだ。
言われた通りの部屋のインターホンを押すと返事が返って来て、少しして扉が開かれた。
「…よう」
「久しぶり、糸師くん。お邪魔します」
頷いた糸師くんに部屋へ招き入れられ、立派なインテリアに実家を思い出しながらリビングへ通された。
抱えていたキャリーを下ろして蓋を開いてみるけれど、ニケは警戒してなかなか出てこない。
そのうち出て来るだろうとそちらは置いておき、向かいのソファに腰掛けた糸師くんへ視線を移した。
「今日はどうしたの?」
「今日からここに住むことになったから、それを知らせようと思っただけだ。あと…前、電話のとき。…悪かった」
「え…?」
電話のとき。何笑ってんだって言われて私が逆ギレしちゃった時の事だろうか。
そうだとしたら見当違いの謝罪だ。あれは私のメンタルがやられていたからというだけで糸師くんに非は無いのに。
「そんなの全然、問題ないよ。私がおかしかっただけだから…」
今はマスクと帽子は必須だけど普通に外出できているし、糸師くんがあれはハウスキーパーだと説明してくれた事で事態は落ち着いている。
だから何も謝ることはないと告げた私を糸師くんはじっと見つめ、ふっと視線を逸らして口を開いた。
「…せっかく1人で立てるようになったお前を、傷つけたかと思って」
「ええ…?どうしたの、なんか変じゃない?大丈夫だよ」
「ならいい。…おいニケ、いつまでそこにいんだお前は」
ケージの中にいるニケに声を掛けて呼び寄せる糸師くんを見守っているとそのうちニケは自主的に出て来て、糸師くんの手にじゃれつき始めた。
遊んでいる様子を見つめながら、そっと心情を吐露する。
「もし燐くんがいたら…」
「…りん」
「あ…前に話した幼馴染の方ね。燐くんがいたら、そしたら私…もっと早く立ち直れてたかな」
燐くんがいたら。何度も何度も考える。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時