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夜は勝利を祝ってチームの人達で食べてくるからと仕事はお休み。
翌日、いつも通りニケが入ったケージをぶら下げて糸師くんの家を訪れた。
「こんばんは。昨日は良い席のチケットありがとう。とっても楽しかった」
「ん」
照れ隠しの短い返事に笑って家の中に上がる。
シーズンオフの間は摂取カロリーの管理くらいだったものの、シーズンに入るときちんとメニューまで指定されているから気が抜けない。
指示の通りに野菜を切って調理していたら、ふと糸師くんの盛大な舌打ちが聞こえてきて顔を上げた。
何やらスマホを見てるみたい、だけど。
「…どうか、した?」
「……撮られた」
「え?」
とられた…盗られた。撮られた?
漢字がすぐに変換されなくて理解に手間取り、けれどようやく変換が完了してサァッと血の気が引いていく。
「撮られたって、もしかして…」
大きな溜息を吐いた糸師くんに見せられた画面を、恐る恐る覗き込む。
「あ……」
そこには町を並んで歩く私達と、昨日スタジアムで客席から落ちそうになったのを抱き止められたシーンがばっちり写っていた。
恋人か、と話題にされてしまっている。
「うそ…!」
「はあ…」
また、大きな溜息。
彼への恋を自覚したばかりだというのとは全く別で、頭から血が引いていく感覚に襲われる。
スキャンダルってやつ、だよね。
町での写真は、2人で買い物に行った時の写真だ。
真っ青になって固まる私を、吹きこぼれたお湯でじゅわあっと音を立てたコンロが急かす。
慌てて火を止め、どうしようという意を込めて糸師くんを見つめた。
糸師くんはこれ以上ないほどに顔を顰めて言う。
「仕事だっつーしかねえ」
「うん…それで収まればいいけど…。っごめんなさい、私が不用意だった。まさかこんな記事が出るなんて…」
「お前のせいじゃない」
「っ……」
なんでそんな優しいこと言うの。
彼の邪魔だけはしたくなかった。いっそ罵ってくれた方が良かったとまで思ってしまう。
やっぱり…この気持ちは、隠さなきゃ。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2024年1月27日 23時